2011/10/24

環境・通信・その他

ヒトES細胞技術、研究目的でも特許性なし=欧州司法裁

この記事の要約

欧州司法裁判所は18日、ヒトの受精卵から作られる胚性幹細胞(ES細胞)の利用をめぐってドイツの科学者と環境団体のグリーンピースが争っている問題で、ES細胞を使った技術には研究目的であっても特許を認めないとする決定を下した […]

欧州司法裁判所は18日、ヒトの受精卵から作られる胚性幹細胞(ES細胞)の利用をめぐってドイツの科学者と環境団体のグリーンピースが争っている問題で、ES細胞を使った技術には研究目的であっても特許を認めないとする決定を下した。この決定により、企業や研究機関は研究費の回収が困難になり、ES細胞の研究に支障が出る可能性もある。

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ES細胞は、受精後間もない胚から取り出される細胞で、あらゆる臓器や器官を形成する能力があることから「万能細胞」とも呼ばれる。効果的な治療法の見つかっていないパーキンソン病など再生医療への応用が期待されている一方で、受精卵を破壊して作られることから倫理面での問題点が指摘されている。

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ドイツ・ボン大学のオリバー・ブリュストレ教授は1997年にES細胞を用いた神経前駆細胞に関する特許を取得したが、グリーンピースはヒト胚の搾取につながるとして、独連邦特許裁判所に特許無効を申し立て、06年に特許の一部無効が言い渡された。同教授はこの判決を不服として独連邦裁判所に上告。連邦裁判所は欧州司法裁にこの問題を付託していた。

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欧州司法裁は、欧州特許条約及びバイオテクノロジー発明の法的保護に関するEU指令(98/44 EC)の主旨から見て、人間の尊厳の侵害につながる可能性のある特許は容認されないと指摘。ヒト胚を遺伝子治療など「ヒト胚そのものに応用され、有益であると認められる治療または診断目的利用は特許適格性がある」とする一方で、「胚盤胞期のヒト胚から幹細胞を取り出す行為はヒト胚の破壊を伴っている」として、こうした研究目的の利用については「特許適格性を欠く」とした。

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欧州司法裁の決定を受け、ブリュストレ教授は「欧州では基礎研究はできても、その成果をもとにした応用研究が不可能になる。欧州の研究者は、その努力の果実を米国やアジアの研究者に奪われてしまうだろう」と懸念を示した。一方、グリーンピース幹部のクリストフ・テン氏は、「欧州司法裁は、倫理が商業的利益に優先するという判断を示した」と歓迎するコメントを発表した。

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