2012/2/20

総合 –EUウオッチャー

模倣品防止条約めぐり不協和音、EUの批准不透明に

この記事の要約

知的財産権の執行のための国際的な枠組みとなる「模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)」をめぐり、EU内で条約を支持する産業界とインターネット上の自由の制限を懸念する市民団体などの対立が高まっている。EUと22の加盟国は1 […]

知的財産権の執行のための国際的な枠組みとなる「模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)」をめぐり、EU内で条約を支持する産業界とインターネット上の自由の制限を懸念する市民団体などの対立が高まっている。EUと22の加盟国は1月にACTAに署名しており、産業団体は近く審議入りする欧州議会への働きかけを強めている。しかし、欧州各国でACTAに抗議する一斉デモが行われた翌日の12日には欧州議会議長がインタビューで条約に否定的な見解を表明しており、議会での批准手続きは先行き不透明だ。一方、欧州委員会はACTAについて、知的財産権の執行基準を国際的に調和させるのが条約の狙いで、EUルールの改正を必要とするものではないと説明し、各方面に理解を求めている。

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ACTAは知的財産の権利者やビジネスに重大な経済的損失をもたらす模倣品や海賊版の増加に歯止めをかけるため、日本と米国が2006年に提唱した構想で、昨年10月に日・米にカナダ、韓国、シンガポール、豪州、ニュージーランド、モロッコを加えた8カ国が署名。先月26日にはEUとドイツ、オランダ、エストニア、キプロス、スロバキアを除く域内22カ国が条約に署名しており、欧州議会と各国議会でそれぞれ批准手続きに入る。

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ACTAには当初、インターネット上の著作権侵害対策として、違法ダウンロードの常習者に対してネット接続を切断するなどの措置が盛り込まれていたが、EU側の強い反対でいくつかの条文が条約から削除された経緯がある。しかし、ACTAは通商条約と位置付けられているため一連の交渉は水面下で行われ、欧州の市民団体などは十分な情報が公開されていない点を最も問題視している。ACTAに署名したポーランドで1月末に大規模なデモが行われたのを機に抗議運動がEU全域に広がり、今月11日には域内のおよそ200カ所で一斉デモが行われた。こうしたなか、欧州議会でも違法ダウンロード対策やEU法との整合性を懸念する声が高まっている。シュルツ議長は独公共放送ARDとのインタビューで「インターネットユーザーの権利と著作権保護の適正なバランスが取れていない」と指摘。「現行の条約は良いものとは思えない」と発言し、ACTAの批准に難色を示した。

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一方、欧州委のレワノヴィッチ報道官は13日、ツイッターで「ACTAはネットユーザーの自由を制限したり、消費者に損害を与えるものではない」と発言。「オンライン上でのコンテンツ共有が阻止されたり、ネット上の行動が監視されることはない」と強調している。

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