2012/3/5

総合 –EUウオッチャー

EU25カ国が新財政条約に調印、財政統合へ前進

この記事の要約

EU25カ国は2日の首脳会議で、財政規律強化に向けた新条約に署名した。新条約は債務危機の再発防止が目的で、従来の安定成長協定よりも厳しく各国の財政赤字を制限する。各国による批准を経て、来年1月の発効を目指す。\ 新財政条 […]

EU25カ国は2日の首脳会議で、財政規律強化に向けた新条約に署名した。新条約は債務危機の再発防止が目的で、従来の安定成長協定よりも厳しく各国の財政赤字を制限する。各国による批准を経て、来年1月の発効を目指す。

\

新財政条約にはEU27カ国のうち英国、チェコを除く国が参加する。各国は財政均衡を維持するため、単年の財政赤字を国内総生産(GDP)比0.5%以内に抑えることを求められる。各国は条約発効から1年以内に、これを憲法や基本法に明文化しなければならない。

\

累積債務がGDP比60%以内に収まっている国については、単年赤字がGDP1%まで許容されるが、EUの財政規律を定めた安定成長協定のGDP比3%より厳しくなる。

\

赤字が同上限を超えた国は、自動的に財政改善を求められ、対応が不十分な場合は欧州司法裁判所からGDP比0.1%に相当する制裁金の支払いを命じられる。制裁金は財政危機に直面するユーロ参加国に緊急金融支援を行う「欧州安定メカニズム(ESM)」に積み立てられ、財政危機でEUに金融支援を要請した国への融資の財源に組み込まれる。EUの財政規律に違反した場合の制裁規定も強化され、加盟国の過半数が反対しない限り発動する。

\

これらの規定は、ユーロ参加国のみに適用される。非ユーロ参加国はユーロを導入するまで、自ら指定した項目に限って拘束される。

\

新条約をめぐっては、当初はEU基本条約を改正する形で財政規律を強化したい考えだった。しかし、英国が国益に反するという理由で参加を拒否したことから断念し、参加国が政府間協定を結ぶ方式での新条約締結に変更を余儀なくされた経緯がある。それでも、ユーロ圏の財政統合に近づいた形となる。EUのファンロンパイ大統領(欧州理事会常任議長)は署名式で「債務危機再発の阻止に役立つ」と意義を強調した。

\

新条約はユーロ圏の12カ国以上が批准した時点で発効となる。未批准国は、批准するまでESMから金融支援を受けることはできない仕組みとなる。

\

\

■危機終息へ楽観ムード

\

\

新条約制定のきっかけとなったユーロ圏の債務危機は、ギリシャで2009年10月の政権交代に伴い、前政権が財政赤字を“粉飾”して過少申告していたことが発覚したのが発端だった。EUの対応が後手に回ったことで危機が拡大し、ギリシャに続いてアイルランド、ポルトガルがEU、国際通貨基金(IMF)から金融支援を受ける事態に発展。一時は主要国のイタリア、スペインも国債利回りが危険水域を超えて自力での資金調達が困難となり、支援要請を迫られる懸念も浮上した。

\

しかし、ここにきてEUの危機対策が一通り出そろい、欧州中央銀行(ECB)が市場に資金を大量供給した効果もあって、金融市場は落ち着きを取り戻している。震源地となったギリシャは依然として厳しい状況にあるものの、EUとIMFによる総額1,300億ユーロの第2次支援実施が決まり、とりあえずデフォルト(債務不履行)の危機を回避。アイルランドの財政再建も順調に進んでいる。イタリア、スペインの国債利回りも低下傾向にある。各国とも構造的問題は解消してないが、新政権の財政再建が軌道に乗るまでの時間的余裕が出ている。

\

今回の首脳会議では、こうした状況を受けて危機終息に向けた楽観的ムードが広がり、仏サルコジ大統領は会議後の記者会見で「まだ危機を脱していないが、新しいページを開きつつある」と述べ、最悪期を脱して新局面に入ったことを宣言した。首脳会議では現行の危機国支援の枠組みである「欧州金融安定基金(EFSF)」および6月に創設されるESMの融資枠拡大を先送りし、月内に結論を出すことで合意したが、これも切迫感が薄れていることが背景にある。

\

EUは今後も危機拡大への監視の目を光らせるが、目先の対策から緊縮策により収縮している景気、雇用の回復に焦点が移ることになりそうだ。

\