2012/5/7

環境・通信・その他

バイオ燃料利用促進めぐる調整難航、土地利用変化の影響評価がカギに

この記事の要約

EU加盟国は2日開いた環境相理事会で、バイオ燃料の持続可能性要件に関する規制について協議したが、バイオ燃料生産に伴う間接的な土地利用変化(ILUC:indirect land use change)の影響評価をめぐって調 […]

EU加盟国は2日開いた環境相理事会で、バイオ燃料の持続可能性要件に関する規制について協議したが、バイオ燃料生産に伴う間接的な土地利用変化(ILUC:indirect land use change)の影響評価をめぐって調整がつかず、合意に至らなかった。欧州では地球温暖化対策の一環として、主に菜種を原料とするバイオディーゼルの生産が急速に拡大しており、世界全体の生産量のおよそ半分を占めている。しかし、持続可能なバイオ燃料生産の基準をめぐる議論の長期化によってビジネスの不確定要素が増しており、市場では130億ユーロ規模の欧州バイオディーゼル産業が衰退する可能性も指摘されている。

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EUが2009年に制定した「再生可能エネルギー利用促進指令」は、EU全体で20年までに全エネルギー消費における再生可能エネルギーの割合を20%まで引き上げるとともに、運輸部門における再生可能エネルギー比率を10%以上とする数値目標を掲げ、加盟国に目標達成を義務づけている。さらに、同指令は目標達成のために使用することができるバイオ燃料の持続可能性基準を定めており、バイオ燃料の温室効果ガス削減率を最低35%とすることや、生物多様性に富んだ土地で生産された原料の使用を禁止することなどが盛り込まれている。

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バイオ燃料の持続可能性で焦点となっている間接的土地利用変化(ILUC)に関する議論は、燃料用作物の生産によって、もともとその土地で生産されていた作物が別の土地で生産されるようになることから、こうした土地利用の変化が環境にもたらす間接的な影響を評価しなければならない、という考え方に基づいている。欧州委員会が2010年に公表した報告書によると、20年を達成期限とする輸送部門における再生可能エネルギーのシェア10%のうち、農作物を原料とする「第1世代バイオ燃料」のシェアを5.6%以内にとどめることができれば、ILUCによる二酸化炭素(CO2)の追加排出を考慮しても、バイオ燃料は「CO2排出削減に役立つ」と結論づけている。ただし、ILUCの影響は米国とブラジルで約9割が生産されているバイオエタノールよりバイオディーゼルでより顕著にみられ、ILUCを加味したバイオディーゼルの温室効果ガス排出量は通常のディーゼル燃料である軽油や重油を上回るとの試算もある。

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欧州委はこうした現状を踏まえ◇バイオ燃料の温室効果ガス排出削減率を現在の35%から一律60%に引き上げる◇ILUCのリスクに応じて特定のバイオ燃料を対象に持続可能性要件を追加し、基準を満たすことができなければ制裁金を科す◇温室効果ガス排出量の最低削減率を60%に引き上げると同時に、ILUCのリスクが高いバイオディーゼルにより厳しい持続可能性要件を課す――という3つの政策アプローチを加盟国に提案している。

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ロイター通信が入手した欧州委の内部文書によると、3つの選択肢の中で1番目のアプローチに基づく規制が導入された場合、ほとんどのバイオエタノールは60%の排出削減が可能であるのに対し、ヤシ油や大豆を原料とするバイオエタノールは目標達成が困難。このため、これらの燃料をEU域内に輸入することは事実上、禁止されることになる。一方、3つ目のアプローチが採用された場合、バイオディーゼルの導入メリットがなくなり、廃棄物やバイオマスを原料とする「第2世代バイオ燃料」やバイオエタノールへのシフトが加速する公算が大きい。

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