2012/11/5

総合 –EUウオッチャー

EU次期中期予算めぐる調整難航、議長国が妥協案提示も混迷続く

この記事の要約

EU議長国のキプロスは10月30日、EUの次期中期予算(対象期間:2014~20年)について、欧州委員会の原案から500億ユーロを減額する妥協案を提示した。しかし、大幅な減額を求めるドイツなど主要国と、予算圧縮による補助 […]

EU議長国のキプロスは10月30日、EUの次期中期予算(対象期間:2014~20年)について、欧州委員会の原案から500億ユーロを減額する妥協案を提示した。しかし、大幅な減額を求めるドイツなど主要国と、予算圧縮による補助金の削減に反発する中東欧諸国の双方にとって受け入れがたい内容で、調整はなお難航しそうだ。

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欧州委が昨年6月に発表した原案の予算総額は、現行中期予算(2007~13年)を5%上回る1兆330億ユーロ。これに対して、EU予算への拠出が多いドイツ、フランス、英国、イタリア、オランダ、スウェーデン、フィンランド、オーストリアの8カ国は、各国が財政再建のため予算を減らしている状況下で、EU予算の増額は受け入れられないとして猛反発。予算総額をEU27カ国の国内総生産(GDP)の1%(=約9,600億ユーロ)以内に抑えるべきとして、原案から1,000~2,000億ユーロ削減するよう求めている。

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議長国キプロスの妥協案は、11月22、23日に開催されるEU特別首脳会議での決着に向けた「たたき台」として提示されたもの。経済発展が遅れている地域のインフラ整備などを支援する構造改革基金の予算の125億ユーロ削減、農業補助金の50億ユーロ削減などにより、500億ユーロ減額するという内容だ。

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これに対してスウェーデンのオールソン欧州問題担当相は、「500億ユーロの減額だけでは合意は不可能だ」と一蹴。算総額を域内総生産(GDP)の1%以内に抑えるという立場を崩さず、減額幅が小さい農業補助金のさらなる圧縮を求める意向を表明した。

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一方、予算削減に反対する中東欧諸国では、ポーランド政府の高官がロイター通信に対して「過剰な削減だ」とコメント。欧州委員会も30日、欧州が債務危機に直面する中でも、成長と雇用確保のための投資は必要として、「妥協案を支持できない」とする声明を発表した。

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英キャメロン首相が窮地

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この問題をさらに複雑にしているのが、英国とフランスの動きだ。英キャメロン首相は、予算の増額を支持する国が多数を占めることから、EU特別首脳会議で大幅な減額を求めるのは非現実的として、妥協策として物価上昇率と同水準の範囲内での増額を認める方針だった。だが、厳しい緊縮策を導入している国内の風当たりが厳しく、英下院は1日、首脳会議で物価上昇を加味した実質ベースでの減額を取り付けない限り、拒否権を発動することをキャメロン首相に求める決議を採択した。

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決議に法的拘束力はないが、キャメロン首相が党首を務める与党・保守党からも53人の議員が造反し、賛成票を投じたことから、首相は反対を押し切って妥協すると党内分裂を招く恐れがあり、難しい対応を迫られる。

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また、フランスは予算の減額を唱えているものの、農業大国である同国が大きな受益国となっている農業補助金の削減には反対で、キプロスがまとめた妥協案に拒否権を発動する構え。予算減額を求めるグループの中にあって、農業補助金の大幅削減による予算減額を求めるドイツなどとの亀裂が生じている。

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EUの中期予算をめぐる協議の難航はいつものことだが、今回は各国が厳しい財政運営を迫られるなか、利害対立を乗り越えて妥協にこぎ着けるのは至難の業で、首脳会議でどのように決着するか、先が見えない状況だ。

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