2012/12/17

総合 –EUウオッチャー

EUが銀行監督一元化で合意、大手行のみ対象に

この記事の要約

EU加盟国は13、14日の首脳会議に先立ち12日に開いた財務相理事会で、「銀行同盟」創設の第1段階となる銀行監督一元化の具体策で合意した。2014年3月から、ユーロ圏の大手銀行の監督権を欧州中央銀行(ECB)に移す。これ […]

EU加盟国は13、14日の首脳会議に先立ち12日に開いた財務相理事会で、「銀行同盟」創設の第1段階となる銀行監督一元化の具体策で合意した。2014年3月から、ユーロ圏の大手銀行の監督権を欧州中央銀行(ECB)に移す。これによって債務危機の再発防止に向けた基盤が大きく強化される格好となった。一方、さらに将来を見据えた抜本的な危機対応となるEUの経済・金融統合推進の「行程表」については、大きな進展はなく、2013年に詰めることになった。

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銀行監督をECBに一元化する計画をめぐっては、対象銀行をどこまで広げるかなど詳細を固める作業が、加盟国間の意見対立で紛糾しEU首脳会議で合意できるか危ぶまれていた。首脳会議の前日に開催された臨時財務相理事会では14時間に及ぶ議論の末、13日午前4時に合意にこぎ着けた。

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欧州委が9月にまとめた一元化の具体案では、大手銀行から順にECBの監督下に置き、最終的に6,000を超えるユーロ圏内の全銀行をECBの監督対象とすることになっていた。これに対して、ドイツが国内に多く存在する中小規模の貯蓄銀行の監督権を独当局が失うことを嫌って反発。欧州委案を支持するフランスと激しく対立し、4カ月にわたって攻防を繰り広げていた。

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財務相理事会ではドイツの要求を受け入れ、対象となる銀行を資産総額が300億ユーロを超えるか、国内総生産(GDP)の20%以上を占める大手銀行に限ることなどで合意した。これにより、ECBの直接監督下に置かれるのは最大200行程度となる見通し。その他の銀行は引き続き各国当局が監督する。ただし、経営不安が生じた場合などは、ECBが介入する権限を持つ。債務危機に直面するユーロ参加国に金融支援を行う「欧州安定メカニズム(ESM)」に支援を要請した銀行については、ECBに監督下に置くという条項も盛り込まれた。

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銀行監督の一元化はユーロ圏が対象だが、非ユーロ参加国も希望すれば参加できる。英国、スウェーデンは加わらない方針を示している。

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もうひとつの大きな問題となっていたのは、監督一元化に加わらない非ユーロ参加国の権利。英国、スウェーデンなどは、ユーロ圏内にある自国の銀行がECBの監督下に置かれるのに、ECB理事会に非ユーロ参加国が加わることができず、政策決定に関与できないのは不公平として不満を示していたためだ。これを受けて理事会では、金融規制などの政策決定について、非ユーロ参加国がEU各国の銀行監督当局を統括する欧州銀行監督局(EBA)を通じて影響力を行使できる仕組みを整えることで合意した。また、監督一元化に加わるにもかかわらず、ECB理事会にポストがない非ユーロ参加国の権利を保障するため、ECB内に設置される「監督委員会」にこれらの国も代表を派遣し、ユーロ参加国と同等の投票権を持つことも規定した。

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銀行監督の一元化は、ESMが資金繰りに行き詰まった各国の銀行に政府を通さず直接支援できるようにするための条件だった。首脳会議では一元化が決まったことを受けて、ESMによる直接支援を2013年上期に実施できる態勢を整えることで合意した。

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ギリシャに端を発した信用不安への対応が後手に回り、債務危機の拡大を招いたEUは、危機発生から3年目に突入した今年になって、場当たり的な対策から抜本的な制度改革に軸足を移した首脳会議は3月に、加盟国の財政規律強化に向けた「新財政協定」に調印し、6月に銀行監督の一元化で合意。9月には欧州中央銀行(ECB)がユーロ圏の重債務国の国債を流通市場で無制限で買い支えることを決定し、10月にはEU版のIMFと称される恒常的な危機国支援の基金となるESMが正式発足した。信用不安はなお解消されていないものの、重債務国の財政健全化に向けた取り組みも加速し、スペインなどの国債利回りの上昇に歯止めがかかっている。欧州委員会のバローゾ委員長は、今回の首脳会議閉幕後の記者会見で、「困難を克服しつつあることへの確信を強めた」と胸を張った。

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一方、今回の首脳会議では、EUのファンロンパイ大統領(欧州理事会常任議長)と欧州委がまとめた経済・金融統合の深化に向けた行程表についても協議。「銀行同盟」実現に向けた次のステップとして、問題がある銀行の破たん処理と、預金保険制度の一元化について、加盟国が2013年3月末までの合意を目指すことが議長総括に明記された。また、経済の構造改革を必要とするユーロ参加国に金融支援を行うための基金を創設する構想や、その前提として対象国が欧州委、ユーロ圏各国と構造改革の詳細について合意し、その実行を「契約」の形で約束することを求めるとする提案についても議長総括に盛り込んだが、具体的な時期目標は明示しなかった。

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このほか行程表では、ユーロ圏の予算共通化なども提唱されていたが、議長総括では言及を避け、ファンロンパイ大統領が構造改革「契約」などの詳細とともに13年6月までに新たな報告書をまとめる方針を打ち出すにとどまった。欧州のメディアは、今回の首脳会議で銀行監督の一元化という大仕事で成果を挙げたことで、行程表については後回しにしても大丈夫という雰囲気が強まったと報じている。

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