2013/4/22

環境・通信・その他

欧州議会が排出枠入札の一部延期を否決、当局介入による信頼失墜を懸念

この記事の要約

欧州議会は16日の本会議で、EU排出量取引制度(EU-ETS)の第3期間(2013-20年)に有償配分する排出枠の入札を一部延期する計画を否決した。欧州委員会は排出枠の供給を減らして需給改善を図り、排出権価格を下支えする […]

欧州議会は16日の本会議で、EU排出量取引制度(EU-ETS)の第3期間(2013-20年)に有償配分する排出枠の入札を一部延期する計画を否決した。欧州委員会は排出枠の供給を減らして需給改善を図り、排出権価格を下支えするためのテコ入れ策を提案していたが、「当局の市場介入は排出量取引制度への信頼を損なう」といった意見が根強く、過半数の議員が反対票を投じた。今後、欧州議会環境委員会で排出枠入札の一部延期(バックローディング)について再協議するが、最終的に廃案になった場合、EUは温暖化対策の柱と位置付ける排出量取引制度の抜本的な見直しを迫られることになりそうだ。

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EU-ETSの第1期間(05-07年)では全体の95%、第2期間(08-12年)でも90%の排出枠がグランドファザリング方式によって対象施設に無償で割り当てられてきたが、第3期間以降は段階的にオークションによる有償割当への移行を進めて27年までに全面移行することが決まっている。企業に環境投資を促すには少なくとも1トン当たり20ユーロ以上の排出権価格を維持する必要があるとされるが、ユーロ危機に伴う景気低迷で企業の生産活動が停滞し、排出枠に膨大な余剰が生じた結果、排出権価格は今年に入り5ユーロを下回る水準で推移している。このため欧州委は昨年11月、第3期間の最初の3年間(13-15年)にオークション方式で有償配分する約35億トン分排出枠のうち、9億トン分の入札時期を16年以降に先送りする案を打ち出し、欧州議会で審議が続いていた。

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欧州議会は3月の本会議で2050年までのEUのエネルギー政策に関する報告書を採択する際、排出権取引市場への介入を欧州委員会に勧告する案を賛成多数で可決した。このため市場では、本会議でバックローディングの構想が承認されるとの見方が広がったが、実際には賛成315、反対334(棄権63)で欧州委の提案は否決された。反対票を投じた議員からは当局の介入に対する懐疑的な見方に加え、排出枠の供給を減らして排出権価格が上昇すれば、それだけ域内企業のコスト負担が増し、国際競争力が損なわれるといった意見が出た。

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欧州委のヘデゴー委員(気候変動担当)は採決結果を受け、「温室効果ガス削減目標を達成し、環境面の技術革新を促す強固な排出量取引市場が求められている」と強調。加盟国に対し、排出枠入札の延期を通じた需給改善策への支持を訴える考えを示した。

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域外航空会社への規制適用、1年凍結

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一方、欧州議会は同日、EU内に乗り入れる域外の航空会社に排出量取引制度を適用する計画を1年凍結する案を賛成多数で可決した。これは昨年11月に開かれた国連の国際民間航空機関(ICAO)総会で、温室効果ガス排出削減に向けた国際的枠組みの構築で合意が成立したのを受け、欧州委が域外の航空会社に対するEU規制の適用見送りを提案していたもの。

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EUは12年1月からEU-ETSの適用を航空部門に拡大し、域内の空港を離着陸するすべての航空会社に二酸化炭素(CO2)の削減を義務づけて、達成できなければ超過分の排出枠を購入するか、制裁金の支払いを求めるルールの導入を決めた。しかし、国際的な合意がないまま域外の航空会社に域内ルールを押しつけるEUのアプローチに対して批判が集中。欧州の航空業界からもICAOの枠組みで国際的なルールを整備すべきだとの声が高まっていた。

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