2013/7/8

環境・通信・その他

欧州議会が排出枠入札の一部延期計画を承認、独の対応がカギに

この記事の要約

欧州議会は3日の本会議で、EU排出量取引制度(EU-ETS)の第3期間(2013-20年)に有償配分する排出枠の入札を一部延期する「バックローディング」構想を賛成多数で承認した。排出枠の需給バランスを改善して排出権価格を […]

欧州議会は3日の本会議で、EU排出量取引制度(EU-ETS)の第3期間(2013-20年)に有償配分する排出枠の入札を一部延期する「バックローディング」構想を賛成多数で承認した。排出枠の需給バランスを改善して排出権価格を下支えするための措置で、欧州委員会は最大9億トン分の入札時期を延期することができる。実施には加盟国の承認が必要だが、ポーランドなどは排出権価格の上昇が企業に重い負担を強いるとして入札延期に反対しており、今後は9月下旬の議会選挙を控えて態度を決定していないドイツの対応が焦点になりそうだ。

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欧州ではユーロ危機に伴う景気低迷で企業の生産活動が停滞し、排出枠に膨大な余剰が生じた結果、排出権価格は今年に入り1トン当たり5ユーロを下回る水準で推移している。欧州委は排出枠の需給改善を図るため、13-15年に有償配分する約35億トンの排出枠うち、9億トン分の入札時期を16年以降に先送りする措置を提案していたが、一部で当局の市場介入に反対する声が根強く、欧州議会は4月の本会議で同構想を否決。排出権価格は過去最低の2.63ユーロに落ち込んだ。その後、主要3会派を中心に妥協点を探る動きが続き、6月19日の環境委員会で実施条件を厳格化した修正案が承認された。

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本会議で採択された計画案によると、欧州委は関係するセクターが新たなコスト負担によってEU域外への移転を余儀なくされる「重大なリスク」にさらされないことが影響評価で確認された場合に限り、20年までの間で1回のみ、最大9億トン分の入札を延期できる。ただし、同措置を講じた翌年に保留分の入札を実施しなければならない。一方、環境委が承認した修正案には保留分のうち、6億トン分の売却益を活用して低炭素化技術の開発推進を目的とする基金を創設する構想が盛り込まれていたが、本会議では同案が否決された。

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排出枠の入札延期に対する産業界の反応は二分されている。製鉄業界はバックローディングに強く反対しており、英国の業界団体は欧州議会の採決を受けて「当局の介入は市場に誤ったシグナルを送ることになり、かえって逆効果だ」などと批判している。一方、 バックローディングを支持する石油メジャーのロイヤル・ダッチ・シェルなどは今回の動きを歓迎している。同社のデービッド・ホーン気候変動担当主席顧問は「排出量取引制度の重要性を内外に示す政治的メッセージだ」と評価。そのうえで、長期的視野に立ってEU-ETSの改革を進める必要があると指摘し、欧州委に対して抜本的な構造改革に向けた具体案の策定を急ぐよう求めていくと述べた。

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一方、加盟国は大部分がバックローディング構想を支持しているものの、特定多数決方式で承認に必要な賛成票は獲得できていない。メルケル首相は産業界への配慮から現時点で態度を保留しているため、今後の議論ではドイツの対応がカギとなる。入札延期の翌年に保留分の入札を実施するルールが修正案に盛り込まれる一方、低炭素化技術の開発推進を目的とする基金の設立計画が否決されたことで、当初の案に比べて産業界の理解が得やすくなったことから、EU内では選挙後の早い段階でドイツが支持を表明するとの見方が出ている。

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