欧州委員会は6日、遺伝子組み換え(GM)トウモロコシ「1507」の商業栽培を認可するようEU加盟国に提案した。EU司法裁判所の一般裁判所が9月、同品種に対する認可手続きが不当に長引いておりEU法に反するとの判断を示したことを受けた措置。しかし、GM作物をめぐっては、英国やスペインを中心とする推進派とフランスやイタリアなどの反対派の間で依然として溝が深く、特定多数決による採決では結論が出ない可能性もある。欧州委はこうした現状を踏まえ、GM作物の認可手続きに関するルールを改正し、EUが栽培を認可した品種についても加盟国が独自の判断で国内での栽培を制限または禁止できる制度の導入を改めて提案した。
\EUがこれまでに域内での商業栽培を認めたGM作物は、米モンサントのGMトウモロコシ「MON810」(1998年)と独BASFのジャガイモ「アムフローラ」(2010年)の2品種。ただ、欧州では依然としてGM作物に対する反発が根強く今後も需要は見込めないとして、BASFは昨年、欧州でのGM作物関連事業から撤退しており、実際に域内で栽培されているのはMON810のみ。しかもドイツ、イタリア、オーストリアなど8カ国(今年8月に違憲判決が出たフランスを含めると9カ国)はセーフガード条項を適用し、国内での同品種の栽培を禁止している。
\こうしたなかで欧州委は10年7月、EUが科学的に安全と認定した品種に関しても、加盟国がそれぞれの実情に応じて国内での栽培を禁止または制限できる制度を導入する方針を打ち出した。加盟国間の対立を解消して認可手続きの迅速化を図り、GM作物に関するEUの規制に対する米国などの批判をかわすのが狙い。これによると、各国政府は健康や環境への影響分析以外に倫理面や社会経済的な根拠に基づいて、独自にGM作物の栽培を禁止または制限することができるようになる。欧州議会は11年7月に欧州委案を承認したが、その後の閣僚理事会で合意に至らず、議論は2年前から実質的に棚上げされている。
\欧州委が今回、域内での栽培認可を提案した1507は、米ダウ・アグロサイエンスと米デュポン傘下のパイオニア・ハイブレッド・インターナショナルが共同開発した害虫抵抗性・除草剤耐性のトウモロコシで、北米や中南米を中心に「Herculex」のブランド名で広く栽培されている。欧州委は2001年に同品種の認可申請を受理したが、安全性への懸念からくり返し科学的検査が行われており、審査期間が10年以上に及んでいる。欧州食品安全機関(EFSA)はこれまで6回にわたり「1507は安全」との見解を表明しているが、加盟国による採決では未だに支持派も反対派も特定多数に達しておらず、パイオニアとダウは07年と10年の2度にわたり欧州委を提訴していた。
\欧州委のボルジ委員(保健・消費者政策担当)は「一般裁判所の判決を受けて問題となっている1507の栽培認可を加盟国に提案した。裁判所の見解は、EUがGM作物の認可手続きを早急に見直す必要に迫られていることを示している。欧州委が3年前に提案し、欧州議会と多くの加盟国から支持を得た、各国政府に栽培認可に関する最終判断を委ねる構想について直ちに議論を再開するよう加盟国に求める」と強調。1507の栽培認可をめぐる採決では、引き続きフランスなどが反対票を投じる公算が大きく、再び特定多数に達しない可能性もあるが、同委員は「棄権は賛成票とみなす」と述べ、最終的には商業栽培が認可されるとの見通しを示した。
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