2014/2/3

産業・貿易

欧州委が金融規制改革案を発表、大手銀の自己勘定取引を禁止

この記事の要約

欧州委員会は1月29日、大手銀行による自己勘定取引の禁止などを盛り込んだ金融規制改革案を発表した。金融危機の再発防止を目的に導入された一連の規制を補完するもので、米国の「ボルカー・ルール」のEU版と位置付けられる。欧州委 […]

欧州委員会は1月29日、大手銀行による自己勘定取引の禁止などを盛り込んだ金融規制改革案を発表した。金融危機の再発防止を目的に導入された一連の規制を補完するもので、米国の「ボルカー・ルール」のEU版と位置付けられる。欧州委は2018年までの実施を目指すとしているが、ドイツやフランスが自己勘定取引の禁止に反対しているほか、欧州議会は5月に選挙を控えていることから十分な審議時間を確保できない事情があり、調整は難航が予想される。

新たな規制の対象となるのは「世界の金融システムに影響を及ぼす重要な銀行」で、EU域内で活動する約30行がこれに該当する。欧州委は金融システムの安定化に向け、「大きすぎてつぶせない銀行」のリスクに対処するため、フィンランド中央銀行のリーカネン総裁を座長とする有識者グループが2012年にまとめた報告書(リーカネン・レポート)を土台に、新たな規制案の策定を進めていた。

リーカネン・レポートは銀行システムの「最も重要な部分」を守るため、同じ銀行グループ内で「リスクの高い特定の業務と預金業務を法的に分離する必要がある」と結論づけ、大手銀行に高リスク取引の分離を義務付けることを提案していた。しかし、銀行業界は高リスク業務の完全分離が義務付けられた場合、融資が阻害されて実態経済に影響が及ぶなどと主張し、厳格な規制に強く反対。欧州委は最終的に◇顧客向けの業務を伴わず、銀行が自らの利益を確保する目的で行う自己勘定での高リスク取引を原則として禁止する◇各国の規制当局に対し、個々の銀行による特定の取引がシステミックリスクを引き起こす可能性があるかどうかの判断に基づいて、個別にマーケットメーキング(値付け)、複雑なデリバティブ(金融派生商品)取引、証券化商品への投資など、リスクの高い業務の分離を命じる権限を与える――を柱とする規制案をまとめた。

一方、大手銀行に対する規制が強化されるなかで、通常の銀行以外のシャドーバンキング(影の銀行)による取引の増大が金融システムの安定を脅かす新たな懸念材料となっている。欧州委は銀行部門への規制を強化すればするほど、シャドーバンキングシステムを利用して規制を回避しようとする動きが広がる現実を踏まえ、シャドーバンキングの透明性を高める必要があると判断。規制当局がシャドーバンキングの実態を把握しやすいようにしてリスクの低減を図るため、レポ取引や証券貸借取引などの「証券金融取引(SFT)」に関する報告を義務付けることを提案している。

欧州委のバルニエ委員は声明で、金融システムの安定と実体経済への融資のバランスを考慮して規制案を策定したと説明。「今回の提案は欧州の銀行システムの規制改革を締めくくる最後の歯車だ。金融システムの安定性を強化し、納税者の資金が銀行の失敗を穴埋めするために使われることがないようにする」と強調した。

仏独や銀行業界は欧州委が自己勘定取引の禁止を打ち出した点に強く反発している。両国は規制案の発表に先立ち、自己勘定取引に関しては取引自体を禁止するのではなく、預金業務との分離で対処すべきとの見解を示していた。仏中銀のノワイエ総裁は「無責任で欧州経済の利益に反する」と欧州委の提案を批判している。また、欧州銀行連盟(EBF)も、ようやく欧州経済が回復の兆しを見せ始めた段階で「長期にわたり市場に不確実性をもたらす」と指摘し、規制案に対して「深い懸念」を表明している。さらに欧州議会・経済金融委員会のシャロン・ボウルズ委員長は、欧州議会の選挙まで4カ月を切り、規制案について審議できる時間はあまりにも少ないと指摘。「この段階での新たな提案は侮辱的だ」と述べ、欧州委の姿勢を厳しく非難した。