2014/2/17

総合 –EUウオッチャー

スイスが移民制限へ、住民投票僅差で可決

この記事の要約

スイスで9日、外国人の移住制限を求める住民投票が行われ、賛成50.3%、反対49.7%で可決された。政府は住民投票に沿った政策を3年以内に実現することを義務づけられるため、EUとの間で結ぶ「国境を越えた人の自由な移動に関 […]

スイスで9日、外国人の移住制限を求める住民投票が行われ、賛成50.3%、反対49.7%で可決された。政府は住民投票に沿った政策を3年以内に実現することを義務づけられるため、EUとの間で結ぶ「国境を越えた人の自由な移動に関する合意」も変更しなければならなくなった。EUの欧州委員会は難色を示しており、最悪の場合は1999年にスイスと締結した第1次二国間協定(人の自由な移動に関する合意を含む7分野の合意からなる)を破棄する可能性もある。

スイスは欧州内での孤立を避けるため、EUとの間で二国間協定を結んでおり、2004年にも詐欺対策、加工農産品など9分野を対象に第2次二国間協定を締結した。こうした流れを受けてEUとの関係は深まり、EUからの移民が急増。過去5年間の移民の純増数は年8万人に達した。これはスイスの人口(約800万人)の1%に当たる規模で、国内に住む外国人の割合は昨年23.2%に達した。ドイツは同8.2%、英国は7.2%、フランスは5.9%にとどまっており、スイスの数値は突出している。

背景には堅調な経済を受けて企業が外国人を大量に採用していることがある。失業率は3%と低く、完全雇用が達成されているため、経済成長を続けるには外国から労働力を調達しなければならない状況だ。

スイスに住む外国人は高学歴者が増えており、その割合は20年前の20%から50%以上に上昇した。1人当たりの納税額も高く、外国人の増加は治安の悪化につながっていない。

それにもかかわらず住民の過半数が移民制限を支持したのは、外国人が増えたことで◇電車が混雑し渋滞も増えた◇家賃や住宅価格が上昇している――という事情があるためだ。住民投票を主導した右派政党スイス人民党(SVP)がスイスのアイデンティティが失われると扇動的なキャンペーンを打ったことも影響したとみられる。SVPによると、現状が続いた場合、2060年には外国人がスイスの人口の半数以上を占めるようになるという。

スイスに住む外国人の70%はEU市民が占める。最も多いのはイタリア人で、30万人に上る。これにドイツ人(29万人)、ポルトガル人(25万人)が続く。

経済に支障の懸念

今回の住民投票にはSPVを除く主要政党と政府、経済界、労組がそろって反対したものの、政府は今後、移民数の上限を毎年設定するルールを導入するとともに、人の自由な移動に関するEUとの合意も見直さなければならない。ディディエ・ブルカルテール大統領は「EUとの協働はスイスの繁栄に大きく貢献している。EUが受け入れられる解決策を模索する」と述べ、移民制限ルールを可能な限り緩く設定する意向を示唆した。

ただ、欧州委は移民数の上限設定は人の自由な移動に関する合意に抵触するとしており、スイス政府とEUが打開策で合意できるかは不透明だ。EUはスイスの提案を不十分と判断した場合、第1次二国間協定の取り決め(いわゆるギロチン条項)に従い、同協定全体を破棄することができる。

スイスが移民制限を実施すると、同国企業は必要な人材を確保できなくなる可能性がある。また、EUがギロチン条項を発動すると、◇物品の自由な移動が行われなくなるため、貿易にも支障が出る◇外資が同国への投資・進出を見合わせる◇企業はドイツなど国境を接するEU加盟国にスイス人を柔軟に配置することができなくなる――などの問題が発生しそうだ。不動産価格が急落する懸念も指摘されている。

スイスの移民制限は専門人材の不足に悩むドイツ経済にはプラスに働く面がある。外国人がスイスを回避してドイツに流入するほか、ドイツからスイスへの移民数が減少する可能性があるためだ。

一方、今回の住民投票はEU加盟国内で近年強まっている移民制限論に勢いを与えそうだ。ドイツでは社会保障の受給目当てでブルガリアやルーマニアから流入する移民が都市部で増加。住民に間に懸念が広がっている。英キャメロン首相は昨年11月、中東欧など他のEU加盟国からの移民流入を制限する方針を打ち出した。仏国民戦線などEU各国の極右政党はスイスの移民制限に倣うべきだと扇動している。