欧州委員会は8月31日、スマートフォンやタブレット端末のメーカーに対し、修理用部品の提供やバッテリー寿命の確保を義務付ける規則案を発表した。修理やリサイクルを容易にすることで使い捨て社会からの脱却を促すと同時に、製造過程で排出される二酸化炭素(CO2)を減らす狙いがある。
欧州委は2020年3月、50年までにEU域内の温室効果ガス排出量を実質ゼロにする目標などを掲げた「欧州グリーンディール」の柱の1つとして、従来の大量生産・消費から「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」への移行を実現するための行動計画を発表した。消費者に「修理する権利」を保障し、電子機器メーカーに対して修理しやすいデザインの採用を促したり、バッテリーや修理部品の在庫を長期的に確保するよう求めることなどを柱とする内容。これに沿って欧州議会は4月、修理する権利に実効性を持たせるため、消費者向けの情報に製品設計や修理可能性などに関する表示を盛り込むことをメーカーに義務付ける新たな提案を採択。また、6月には24年までに域内で販売する電子機器に用いる充電器の端子を「USB-C」に統一する規則案を採択している。
今回の規則案によると、スマートフォンやタブレット端末のメーカーは発売から5年間、少なくとも15種類の修理用部品を入手可能にしておく必要があり、バッテリーは少なくとも500回のフル充電後に満充電容量の83%以下にならないようにしなければならない。ソフトウェアも規制の対象となり、メーカーは端末の発売から5年間はセキュリティアップデートを、3年間は機能アップデートを提供しなければならない。また、洗濯機や食洗機などと同様、エネルギー効率やバッテリーの耐久性、耐落下性能など表示が義務付けられる。
ベルギーに本部を置く欧州環境事務局(EEB)によると、EU域内で販売されるすべてのスマートフォンの寿命が5年延びた場合、CO2排出量を約1,000万トン削減することが可能で、これは域内を走る500万台の自動車を排除するのに相当するという。タブレット端末や従来型の携帯電話も規制の対象とし、修理やリサイクルを容易にすることで、新たな端末の製造や使用に伴うエネルギー消費を3分の1程度減らすことができると試算している。
これに対し、メーカー側からは新規則がコスト増につながるといった声が上がっている。情報通信技術(ICT)関連の業界団体デジタルヨーロッパは「潜在的な過剰生産とそれに伴うスペア部品の保管や廃棄は、当然ながら資源の浪費や材料効率の低下を招き、最終的に消費者の負担が増すことになる」と指摘している。