欧州委員会は11月30日、法の支配の原則に違反した加盟国に対し、EU予算の執行を一時停止することができる規則をハンガリーに適用し、結束政策に基づく75億ユーロ(約1兆700億円)の拠出を一時停止すべきだとの審査結果を公表した。閣僚理事会は12月19日までに採決を行い、同措置を発動するか最終決定する。
法の支配の順守を予算配分の条件とする規則は、EU予算の不適切な使用を防止する目的で2020年12月に採択された。ハンガリーとポーランドは法的根拠に欠けるなどと主張し、無効化を求めて提訴したが、EU司法裁判所は今年2月、同規則を適法とする判断を示して両国の訴えを退けた。これを受けて欧州委は4月、汚職や腐敗防止の取り組みが不十分との理由から、ハンガリーに対して同規則を発動するための手続きを開始した。
ハンガリー側は8月、発動を回避するため、EU予算の支出先や使途を監視する独立機関および汚職対策のための作業部会の設置、公共調達の適正化に向けた取り組みの強化、公共調達に係る手続きの電子化など、17項目からなる改善策を欧州委に提示した。しかし、欧州委は9月、進捗が遅いとして21~27年の予算枠組みでハンガリーに配分される結束基金のうち、約3分の1に相当する約75億ユーロの交付を一時停止することを加盟国に提案していた。
一方、欧州委は今回、新型コロナウイルス禍で打撃を受けた経済の立て直しを支援する復興基金からハンガリーに対する総額58億ユーロの補助金の拠出を承認した。ただし、上記17項目の改善策を含む27項目の改革措置の完全かつ適切な実行が条件となる。拠出を実施するには4週間以内に閣僚理事会の承認を得る必要があり、取り組みが不十分と判断された場合、脱炭素化やデジタル化などを柱とする復興計画にさらなる遅れが生じることになる。
ハンガリーは21年5月に復興計画を欧州委に提出し、コロナ禍からの経済再建を支える総額7,500億ユーロの復興レジリエンス・ファシリティ(RRF)から返済不要の補助金72億ユーロの拠出を求めた。復興基金は大半の加盟国に対して21年から予算執行されてきたが、ハンガリーに関しては法の支配の順守を予算配分の条件とする規定に基づき、欧州委による審査が長引いていた。
欧州委のハーン委員(予算・総務担当)は声明で「全体としてハンガリーは正しい方向に進んでいるが、改革の主要部分に関して対応が不十分な項目が残っており、EU予算を拠出するうえで引き続きリスクがある」と指摘した。