欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2023/3/6

EU情報

EUと英政府が北ア問題で合意、ようやく対立に終止符

この記事の要約

EUと英国は2月27日、英国がEUを離脱した後もEU単一市場に残った英領北アイルランドの通商ルールを定めた「北アイルランド議定書」の見直しで合意した。英本土から北アイルランドに入る物品の通関・検疫手続きを大幅に簡素化する […]

EUと英国は2月27日、英国がEUを離脱した後もEU単一市場に残った英領北アイルランドの通商ルールを定めた「北アイルランド議定書」の見直しで合意した。英本土から北アイルランドに入る物品の通関・検疫手続きを大幅に簡素化するのが柱。3年近くにわたる双方の対立に、ようやく終止符が打たれる。英国議会と北アイルランド議会が合意内容を受け入れるかどうかが今後の焦点となる。

EUと英国が2019年10月に合意した離脱協定には、北アイルランドとアイルランドの紛争に終止符を打った1998年の和平合意に基づいて北アイルランド議定書が盛り込まれ、英の離脱後も北アイルランドとアイルランドの間に物理的な国境を設けず、物流やヒトの往来が滞らないようにすることが決まった。北アイルランドが事実上、EU単一市場と関税同盟に残ることで、通関が北アイルランドとアイルランドの間では行われないようにするのが狙いだ。

その代わりに、英本土から北アイルランドに流入する物品については国内の移動であるにもかかわらずEUの規制が適用され、通関・検疫が必要となる。これについて英政府は、同ルールによって北アイルランドで物流が混乱するなどとして、北アイルランド議定書で取り決められた通商ルールの抜本的な見直しを21年7月に要求。これに反発するEUとの協議が難航していた。

欧州委員会のフォンデアライエン委員長と英スナク首相は、ロンドン郊外のウィンザーで会談し、同問題で合意した。「ウインザー・フレームワーク」と称される同合意では、最大の焦点となっていた通関について、北アイルランドだけで販売される物品については通関手続きを大幅に減らす。一方、北アイルランド経由でアイルランドなどEU域内に輸出されるか、輸出される可能性がある物品は、通常の通関検査を受ける。

この緩和措置はソーセージなど冷蔵食肉製品にも適用される。EUでは域外の第3国からの冷蔵食肉製品の輸入を禁止するルールがあり、北アイルランドにも適用されるため、英国から北アイルランドに同製品を出荷できない問題が生じることに対応する。英国側の要求が、ほぼ受け入れられた格好だ。

北アイルランドをめぐるEUと英国の通商紛争をEUの欧州司法裁判所(ECJ)の管轄とするルールに関しては、ECJ がEU法に関する「唯一にして究極の調停機関」であることを確認した一方で、北アイルランドでの権限を減らすことで合意した。

さらに、EUが物品に関するルールを変更する際、英国が拒否権を発動できるようにする。北アイルランド議会の2党以上の政党に属する30人以上の議員から要請があれば、英政府が拒否権発動の可否を判断するという仕組みだ。ただ、新ルールが旧ルールと大きく異なり、北アイルランド社会に大きな影響を及ぼすといった「きわめて例外的な状況」に限って発動するというセーフガード措置が盛り込まれた。

北アイルランド議定書をめぐっては、20年に当時の英ジョンソン首相とEUが合意したが、北アイルランド内の親英国派が英国との結びつきが弱まるとして猛反発したことなどを受けて、ジョンソン氏が抜本的な見直しを要求。これを拒否するEUに対して、21年6月に議定書の一部を一方的にほごにする「北アイルランド議定書法案」を議会に提出するなど強硬な姿勢を貫いてきた。これに対抗してEUが英国に対する法的措置に着手したほか、EUの科学研究プログラムから英国を締め出すなど、対立が激化していた。

風向きが変わる契機となったのは、22年10月のスナク政権発足。同年5月に北アイルランドで実施された議会選挙で、議定書を支持するカトリック系のシン・フェイン党が最多議席を獲得して初めて第1党となったが、英国への帰属意識が強い第2党のプロテスタント系民主統一党(DUP)が連立議定書の見直し、破棄を求めて連立を拒否し、自治政府が樹立できない状態にあることなどから、早期の決着に乗り出した。

DUPの動きがカギに

合意後の記者会見で、スナク首相は「EUとの関係で新たな章が始まる」と意義を強調。フォンデアライエン委員長も「歴史的なことを成し遂げた」と応じた。

スナク首相にとって次の課題となるのが、英議会とDUPの支持取り付け。英議会では与党・保守党内の離脱強硬派の反発が予想されるが、最大野党の労働党が賛成しており、ハードルは低そうだ。

カギとなるのはDUPの動き。ドナルドソン党首は27日、「大きな前進だ」と述べ、一定の評価を与えたが、合意内容を精査した上で党としての対応を決める意向を表明。態度を明らかにしなかった。DUPが同意すれば、保守党も支持で結束すると目されている。