欧州委員会は8日、EU加盟国の2024年の財政計画に関するガイダンスを公表した。赤字を厳しく制限する財政規律の適用を一時的に停止する措置が同年に終了するが、2022年に発表したEUの財政ルール改正案に沿って、各国の実情に見合った柔軟な債務削減を可能とする。
EUの財政規律を定めた安定成長協定では、各国に単年の財政赤字を国内総生産(GDP)比3%以内、累積債務をGDP比60%以内に抑えることを義務付けている。順守できなかった国には厳しい制裁が課される。しかし、各国の事情を考慮し、これまで制裁が発動された例はなく、ルールが形骸化しているのが実情だ。イタリアなど南欧諸国からは規律が厳しすぎ、経済成長に必要な歳出が制限されるという不満も出ている。
こうした状況を受けて、欧州委は22年11月、財政規律の改正案を発表。累積債務がGDP比60%を超えた場合に、超過分の20分の1を毎年削減することを義務付ける規定を撤廃し、各国が独自の債務削減計画を策定できるようにすることを提案した。
また、各国がどれだけの赤字を抱えているかについて、現行ルールでは構造的赤字を重視しているが、利払いを除くプライマリー収支(基礎的財政収支)に軸を置く方向に転換する。構造的赤字は定義があいまいで、算定が難しく、赤字額を特定する際の基準としてふさわしくないと判断したためだ。
今回発表したガイダンスは、新型コロナウイルス感染拡大による経済危機に対応するため20年から続いている財政規律の適用停止が23年末で無効となり、24年から適用が再開されることを受けたもの。財政規律改正が決まるまでの「つなぎ措置」(ドムブロフスキ副委員長)の意味合いがある。
これによると、各国が今春に提出する24年の赤字・債務削減計画について、単年の財政赤字が中期的にGDP比3%以内に収まり、累積債務が減少に向かうか、横ばいとなることを条件に受け入れ、それを踏まえた勧告を行う。
また、各国がロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー価格高騰に対応するため実施している大規模な助成措置に関して、高騰が一服していることから段階的に廃止することを求める一方で、50年にEU域内の温室効果ガス排出量を実質ゼロにすることを目指す「欧州グリーンディール」政策に沿った環境分野や、デジタル化推進への投資は継続するよう促している。ジェンティローニ委員(経済担当)は、これらへの投資を削減することで財政健全化を進めるのではなく、経常支出を抑えるべきとの見解を示した。
このほか、過剰赤字是正手続きの凍結が24年に解除されるものの、景気の先行きが不透明なことを考慮し、同年の春まで手続きを発動しないことを明らかにした。