フランスのマクロン政権は16日、受給開始年齢の引き上げを柱とする年金改革法案を強行採択した。上院は通過したが、与党連合が過半数割れしている下院では可決が見込めないため、採決なしで首相が採択できる憲法の規定を適用した。強行採択に反発する野党側は17日、内閣の不信任決議案を提出した。不信任案が可決されれば法案は廃案となるが、現時点では可決は困難との見方が強い。早ければ20日にも採決が行われる見通しだ。
フランスの憲法49条3項は、社会保障費に関連する法案などを議会の採決を経ずに、首相が採択できると規定している。マクロン大統領率いる与党連合は当初、中道右派・共和党の協力を得て下院で法案を可決させる考えだったが、世論の強い反発を背景に多数派工作に失敗。ボルヌ首相は法案が下院で否決されるリスクを避け、憲法規定を適用して強行採択に踏み切った。
政府が1月に発表した年金改革法案は、受給開始年齢を現行の62歳から段階的に引き上げ、2030年に64歳とする内容。また、年金の最低支給額を現状より約100ユーロ引き上げ、月額1,200ユーロ(約17万円)とすることも盛り込んだ。マクロン政権は1期目の19年にも年金改革を打ち出したものの、燃料増税への反発から全国に広がった反政府デモ「黄色いベスト運動」の高まりで大規模なストライキに直面。20年には新型コロナウイルス感染拡大を理由に、改革をいったん断念した経緯がある。
下院での強行採択を受け、16日にフランス各地で抗議デモが展開された。パリでは約6,000人がデモを行い、一部が暴徒化して約200人が逮捕された。主要労働組合は法案が発表された直後から断続的に抗議ストを行ってきたが、23日にも大規模な反対デモを計画しており、国民生活が混乱する恐れがある。