欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2015/1/19

総合 – 欧州経済ニュース

欧州委が財政規律の弾力運用を発表、フランス・イタリアに追い風に

この記事の要約

欧州委員会は13日、EUの財政規律を定めた安定成長協定を弾力的に運用すると発表した。公共投資や構造改革を進める加盟国に財政赤字、債務の削減を猶予するのが柱。協定に違反しているフランス、イタリアなどが恩恵を受けることになる […]

欧州委員会は13日、EUの財政規律を定めた安定成長協定を弾力的に運用すると発表した。公共投資や構造改革を進める加盟国に財政赤字、債務の削減を猶予するのが柱。協定に違反しているフランス、イタリアなどが恩恵を受けることになる。

安定成長協定では加盟国に単年の財政赤字を国内総生産(GDP)比3%以内、累積債務を同60%以内に抑えることを義務付けており、違反した国には厳しい制裁を科すことになっている。赤字と債務が許容範囲内にある国も、改善を求められる。

欧州委が発表した新ガイドラインでは、財政改善や長期的な成長に向けた大規模な構造改革に取り組む場合に特例措置を適用。財政赤字と累積債務があるものの、規律違反のレベルを下回る国には、財政再建の中期目標達成期限を4年延長する。ただし、これによって単年の財政赤字がGDP比3%を超えてはならず、赤字拡大をGDP比0.5%以内にとどめる必要がある。赤字がGDP比3%を超え、過剰赤字是正手続きを発動されているフランスなど関しても、構造改革に実効性があると判断すれば制裁を猶予し、是正期限を延長する。

投資に関しては、欧州委が景気浮揚策として昨年発表した総額3,150億ユーロ規模の投資計画の柱となる「欧州戦略投資基金(EFSI)」に加盟国が拠出すれば、拠出額を赤字に組み入れず、これによって実際の赤字がGDP比3%を超えたとしても是正手続を発動しないことを決めた。また、財政規律に違反していない国を対象に、EFSIの対象となる事業やEUレベルの公共事業に投資する場合、財政再建の中期目標達成期限を4年延長する。

さらに欧州委は、経済が悪化している加盟国への特例措置を拡大する。具体的には、累積債務が許容範囲を超える国に毎年、GDP比0.5%に相当する構造的な赤字の削減を義務付けるルールを緩和し、削減幅を◇GDPの実質伸び率がマイナス1.5~3%となっている時期にはGDP比0.25%◇同伸び率がマイナス1.5~3%で、しかも潜在成長率を下回る場合は0%――にとどめることを認める。適用は累積債務がGDP比60%以内の国に限定する。GDP実質伸び率がマイナス3~4%と景気低迷が深刻な状況にある場合は、累積債務が60%を超える国も含めて構造赤字の削減を免除する。これらの特例措置は過剰赤字是正手続きを発動されている国は対象外となるが、欧州委は構造赤字削減の取り組みを評価する際に景気動向を勘案する方針を打ち出した。

欧州委は一連の措置について、財政規律の緩和ではなく、あくまでも柔軟な運用が目的と説明。ルール改正ではないため、加盟国や欧州議会の承認は不要で、即座に適用するとしている。

EUでは財政監視強化策として、ユーロ参加国の毎年の予算案を欧州委が事前審査する制度が13年に導入された。11月に発表された15年予算案の審査結果ではフランス、イタリアが問題視され、欧州委が3月初めまでに制裁発動の是非を判断することになっている。

今回打ち出した財政規律の弾力運用は、ギリシャの政局混迷を受けて広がるユーロ危機再燃の懸念が、主要国である仏伊への制裁発動で増幅し、市場を混乱させるのを防ぐ意図があると目されている。ただ、規律違反が累積債務にとどまり、財政赤字はGDP比3%を下回っているイタリアが大きな恩恵を受ける一方で、フランスに与える影響は限られることになる。