欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2015/3/2

EU産業・貿易

欧州委が「エネルギー同盟」構想発表、脱ロシアで調達多様化へ

この記事の要約

欧州委員会は2月25日、エネルギー分野で単一市場を形成し、エネルギー安全保障の強化を目指す「エネルギー同盟」の実現に向けた戦略文書を発表した。ウクライナ危機をめぐり対立するロシアへのエネルギー依存を減らすのが狙いで、資源 […]

欧州委員会は2月25日、エネルギー分野で単一市場を形成し、エネルギー安全保障の強化を目指す「エネルギー同盟」の実現に向けた戦略文書を発表した。ウクライナ危機をめぐり対立するロシアへのエネルギー依存を減らすのが狙いで、資源の調達先や供給ルートの多様化を進めるとともに、域内でエネルギー供給網の相互接続を推進し、加盟国が電力やガスを融通しあう体制を整えることなどを柱とする内容になっている。

EUは同構想について、3月上旬のEU環境相理事会や3月19、20日に開く首脳会議で協議することになっている。

欧州委によると、EUはエネルギーの輸入依存度が53%に上り、年間の輸入額は約4,000億ユーロに達する。このため米国と比べて元売りのガス料金は2倍以上、電力料金も30%ほど高く、域内の消費者と企業にとって大きな負担になっている。さらにバルト3国とフィンランド、スロバキア、ブルガリアは国内のガス需要をロシアからの輸入に100%依存しており、エネルギー安全保障の観点から脱ロシア依存がEUにとって急務になっている。

欧州委はウクライナ情勢を念頭に、「ここ数カ月の政治的課題を通じ、エネルギー資源の安定確保に向けて調達する資源の種類、供給源、供給ルートなどの多様化が不可欠であることがより明確になった」と指摘。具体的な取り組みとして◇中央アジアの天然ガスをトルコ経由で欧州に運ぶ「南回廊」パイプラインの計画推進◇地中海経由で北アフリカと欧州を結ぶガスパイプラインの建設◇液化天然ガス(LNG)基地の開発強化◇米国からのシェールガスの輸入――などを挙げている。

一方、EUは2020年までに発電能力の少なくとも10%を「国境を越えて」供給できるようにすることを加盟国に義務づけているが、現時点で英国、スペイン、イタリア、ポーランドなど12カ国は条件を満たしていない。欧州委はこうした現状を踏まえ、EU全体でエネルギー供給網の相互接続を推進し、域内のすべての地域で安定的に電力・ガスが供給される体制を確立する目標を掲げている。

ロシアとの関係では「公平な立場から、条件が整った時点でエネルギー面での協力の枠組みを見直す」と表明。その一方で、天然ガスの新たな調達先として有望視されるアゼルバイジャンやトルクメニスタン、経由国となるトルコなどと戦略的提携を結び、エネルギー資源の安定供給を図る方針を示している。

欧州委のシェフチョビチ副委員長(エネルギー同盟担当)は戦略案について、「エネルギー分野で(EUの前身である)欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)の設立以来、最も野心的な計画が始動した。これは域内28のエネルギー市場を統合して輸入依存度を低減させ、EU市民と域内の企業に低コストで安定的にエネルギーを供給するためのプロジェクトだ」と強調した。

一方、欧州委は同日、「2050年までに世界全体の温室効果ガス排出量を10年比で少なくとも60%削減する」との中期目標を盛り込んだ政策文書を発表した。12月にパリで開かれる第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)に向け、京都議定書に代わる新たな国際的枠組みに関する議論でEUが主導権を握る狙いがある。

EU自身は温室効果ガス排出量を30年までに1990年比で少なくとも40%削減する目標を掲げている。欧州委は09年のCOP15で各国が合意した「地球全体の気温上昇を産業革命前と比較して2℃未満に抑える」との目標を達成するため、2大排出国の中国と米国のほか、日本を含む20カ国・地域(G20)に対し、EUと同様に野心的な削減目標を提出するよう促した。