欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2015/5/11

総合 – 欧州経済ニュース

英総選挙で保守党大勝、単独で過半数確保

この記事の要約

英国で7日に実施された下院議会(定数650)の総選挙で、キャメロン首相率いる与党・保守党が予想を覆して大勝した。大接戦が見込まれていたが、改選前を大きく上回る331議席を獲得し、単独での過半数を確保。キャメロン首相の続投 […]

英国で7日に実施された下院議会(定数650)の総選挙で、キャメロン首相率いる与党・保守党が予想を覆して大勝した。大接戦が見込まれていたが、改選前を大きく上回る331議席を獲得し、単独での過半数を確保。キャメロン首相の続投が決まった。これによって首相が公約してきたEU離脱の是非を問う国民投票の実施が確実となり、EUは大きな試練に直面することになる。

保守党は改選前から29議席増やし、23年ぶりに単独で過半数を確保した。労働党は大きな支持基盤を築いてきたスコットランドで大敗するなど予想を超える苦戦を強いられ、256議席から232議席に後退。昨年にスコットランド独立の是非を問う住民投票を実現させたスコットランド民族党(SNP)は同地域で労働党の支持層を切り崩し、改選前の6議席から56議席に増やし、第3党に躍り出た。

保守党と連立政権を組んでいた自民党は8議席と、56議席から大きく減らした。一方、反EU、移民排斥を掲げる英国独立党(UKIP)は、昨年の欧州議会選で英の第1党となり、今回も躍進が予想されていたが、1議席にとどまった。得票率では第3位につけながらも小選挙区で競り負け、ファラージュ党首も落選した。選挙結果を受けて労働党のミリバンド党首と自民党のクレッグ党首、ファラージュ党首は8日に辞意を表明した。

世論調査では保守党と最大野党・労働党の支持率がきっ抗し、大接戦が予想されていた。さらに、SNPなど第3極の台頭により、どちらが第1党となっても単独での過半数は難しいとの見方が有力だった。それだけに保守党の単独過半数は予想外。キャメロン政権が財政緊縮を進めながらも景気にも目配りし、EU主要国で最も高い経済成長を維持したことが評価された。労働党がスコットランドでの支持を確保するため、独立派と手を結んでスコットランドを独立させようとしていると訴えた「ネガテヴィブ・キャンペーン」も奏功したもようだ。

英国内ではEUの中東欧諸国からの移民が大量に流入し、雇用を奪っているとの危機感や、EUの中央集権化によって英国の経済・金融政策が縛られているという批判から、EU離脱を求める動きが活発化している。こうした不満を吸収するため、キャメロン首相は今回の選挙で続投が決まれば2017年末までに離脱の是非を問う国民投票を実施すると公約していた。ただ、首相自身はEU離脱に消極的で、今後はEUとの交渉を通じて英国が求める移民制限、国家主権拡大や、英のEU予算分担の軽減などを認めさせ、国民の不満を和らげた上で国民投票に踏み切り、EU残留を取り付けるという戦略を描いているとされる。首相にとって保守党が単独で政権を運営できることは、同問題で他党の協力を必要とせずにEUとの交渉に集中できるだけに、大きな意味がある。

しかし、こうした要求の実現にはEU基本条約の改定が必要で、全加盟国の承認を取り付けなければならない。とくに移民制限に関しては、EUでは域内の人の自由な移動が最も重要な原則のひとつとなっていることから、中東欧諸国を中心に猛反発を招くのは必至だ。  

一方、EUは主要国である英国の離脱はなんとしても避けたいところで、欧州委員会のユンケル委員長は4月、基本条約の「細かな」改定も含めて英政府との協議に応じる構えを示していた。欧州委員会の報道官も8日の記者会見で、英政府と「建設的に」話し合う用意があると明言した。ただ、同報道官は人の自由な移動など大原則は変えられず、交渉には応じられないとしており、雲行きは非常に険しい。英国内では経済界を中心にEU残留を望む声も強いが、双方の交渉が行き詰まれば一気に離脱に傾く恐れがある。

英政府にとってはSNPの台頭も頭痛の種だ。同党は今回の選挙戦で、幅広い層の支持を取り込むためスコットランド独立を看板には掲げなかったが、中央政府が約束している自治権拡大がもたつくと独立の気運が再燃しかねず、国内にも大きな火種を抱えることになる。