欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2015/5/26

EU産業・貿易

国外運送会社への最低賃金適用は「EU法違反」、欧州委が独政府に警告

この記事の要約

欧州委員会は19日、ドイツ国内を走行する国外運送会社のトラック運転手に法定最低賃金を適用するのはEU法に抵触する恐れがあるとして、同国政府に違反手続きの第1段階となる正式通知書を送付したと発表した。ドイツ側は2カ月以内に […]

欧州委員会は19日、ドイツ国内を走行する国外運送会社のトラック運転手に法定最低賃金を適用するのはEU法に抵触する恐れがあるとして、同国政府に違反手続きの第1段階となる正式通知書を送付したと発表した。ドイツ側は2カ月以内に回答する必要がある。独政府は周辺諸国からの批判を受け、国外からの運転手に対する最低賃金の適用を一時見合わせているが、欧州委がEU法との整合性について否定的な判断を下したことで、同制度の運用見直しを迫られそうだ。

ドイツでは伝統的に労使間の労働協約によって部門ごとに最低賃金が決められていたが、2014年8月に最低賃金法が制定され、今年1月1日付で時給8.5ユーロの法定最低賃金が導入された。輸送部門に関してはドイツ国内を走行するすべてのトラック運転手に最低賃金が適用され、国外からのトラックはドイツ国境を越えた時点で適用対象となった。

新制度のもとで国外の運送会社は予め税関に輸送経路を届け出たり、ドイツ語の雇用契約書を運転手に携行させることが義務づけられ、違反した場合は最高50万ユーロの罰金を科すなどの罰則規定が設けられた。これに対してポーランド、ハンガリー、チェコなどの運送業界が一斉に反発し、欧州委に苦情を申し立てた。独政府はこうした動きを受け、1月末から国外の運送会社に勤務する運転手への最低賃金の適用を凍結している。

欧州委は最低賃金制度の導入自体については「全面的に支持する」としたうえで、ドイツ国内を走行するすべてのトラック運転手に最低賃金を適用することは、域内におけるサービス提供の自由やモノの自由移動の制限につながる恐れがあり、とりわけ外国の運送会社は不均衡な負担を強いられることになり「正当化できない」と非難。サービスやモノの自由移動を保証しながら労働者を保護し、同時に公正な競争を確保できる「よりバランスの取れた施策」があるはずだと指摘している。

ただ、すでにドイツ側は周辺諸国からの批判を受けて国外運送会社の運転手への最低賃金の適用を見合わせており、欧州委が違反手続きに入ったことに対して「過剰反応」といった声も出ている。欧州委の報道官はこの点について、たとえ現時点で最低賃金の適用を凍結していても、将来にわたって適用が除外されることを意味するわけではないと指摘。「法的安定性」を確保する必要があると強調している。