欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2015/6/22

EU情報

加盟国が銀行構造改革案で合意、自己勘定取引は容認へ

この記事の要約

EU加盟国は19日に開いた財務相理事会で、域内の大手銀行にリスクが高い業務の分離などを求める銀行構造改革の規則案で合意した。自己勘定取引の容認、英国を適用対象外とするなど、原案を大幅に修正した内容となっている。 この構造 […]

EU加盟国は19日に開いた財務相理事会で、域内の大手銀行にリスクが高い業務の分離などを求める銀行構造改革の規則案で合意した。自己勘定取引の容認、英国を適用対象外とするなど、原案を大幅に修正した内容となっている。

この構造改革は、「大きすぎてつぶせない銀行」のリスクを軽減することで、EUの金融システムの安定を保つのが目的。有識者グループが2012年にまとめた報告書(リーカネン・レポート)を土台に、欧州委員会が2004年1月の原案をまとめた。「世界の金融システムに影響を及ぼす重要な銀行」を対象に、リスクが高い業務と預金業務を分離するという内容だ。各国の銀行監督当局が、各銀行による特定の取引に過剰なリスクを伴う可能性があるかどうかを判断し、マーケットメーキング(値付け)、デリバティブ(金融派生商品)取引、証券化商品への投資などリスクの高い業務の分離を個別に命じる形となる。このほか、銀行が自らの利益のためにリスクの高い金融商品を売買する「自己勘定取引」の禁止も盛り込んだ。

同規案をめぐっては、銀行業界が収益力の低下を招き、融資を減らさざるを得なくなり、経済全体に悪影響を及ぼすとして、厳格な規制に反発していた。これを受けて加盟国は今回、自己勘定取引を禁止する条項を外し、分離対象とするにとどめることで合意した。マーケットメーキングを分離対象に含めないことも決めた。

このほか修正案には、特定業務の分離の可否をめぐる各国当局の権限を原案より拡大することや、英国については一連の規則の適用を除外することでも合意した。

英国の適用除外は、同国では「ビッカーズ改革」と呼ばれる銀行改革法が制定されており、預金の受け入れを中核とするリテール業務と投資銀行業務を分離する「リングフェンス」が導入されていることから、政府が同法令で十分に対応できるとして要求していたものだ。これを他の加盟国が受け入れた背景には、英国が実施するEU離脱の是非を問う国民投票で金融主権が大きな争点となっていることがあるもよう。残留のために譲歩が必要との判断が働いたとみられる。

同規則の対象となるのは、総資産が300億ユーロ以上で、トレーディング業務の収入が700億ユーロを超えるか、総資産の10%を上回る銀行。欧州委によると、域内の約30行が該当する。トレーディング収入が1,000億ユーロを超える銀行については、より厳しい規制がかけられる。

同案は欧州議会の承認が必要となる。議会内ではリスク規制をどれだけ厳しくするべきかについて見解が分かれていることから、審議が長引くのは必至と目されている。