欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2015/7/6

EU情報

ギリシャが国民投票で緊縮策拒否、ユーロ圏は7日に対応協議

この記事の要約

ギリシャで5日、EUなどが金融支援の条件として求める財政緊縮策の受け入れの可否を問う国民投票が実施され、即日開票の結果、反対が61%と賛成の39%を大きく上回り、チプラス政権の緊縮拒否が支持された。EUからの支援が打ち切 […]

ギリシャで5日、EUなどが金融支援の条件として求める財政緊縮策の受け入れの可否を問う国民投票が実施され、即日開票の結果、反対が61%と賛成の39%を大きく上回り、チプラス政権の緊縮拒否が支持された。EUからの支援が打ち切られ、事実上のデフォルト(債務不履行)状態に陥っているギリシャは、この結果を突き付けてEUに妥協を迫り、融資再開を取りつけたい考えだが、EU側がすぐに交渉に応じるか不透明で、ギリシャのユーロ離脱が現実味を増してきた。ユーロ圏は7日に緊急首脳会議を開催し、今後の対応を協議する。

ギリシャのチプラス首相は、緊縮反対派が過半数を超えることが確実となった5日夜のテレビ演説で、「民主主義の勝利だ」と勝利を宣言。「国民は勇気ある選択を行った」とした上で、「私に与えられたのは欧州と決裂するための権限ではなく、実現可能な解決策の模索に向けた交渉力を強化する権限だ」と述べ、投票結果を踏まえてEU側との再交渉に臨み、危機打開に向けた合意を目指す意向を表明した。

ギリシャ国民の多くは生活を圧迫する厳しい緊縮策の継続に反発し、1月の総選挙で反緊縮を掲げる野党の左派・急進左派連合(SYRIZA)を勝利させた。ただ、今回の国民投票では、反対が多数を占めればギリシャがEUなどから見放され、ユーロ離脱につながりかねないとの声が強まり、事前の世論調査は賛成、反対の両派がきっ抗していた。それだけに、大差での「反対」は予想外。ギリシャ国民が危機を回避するため、冷静な判断を下すというEUの期待は大きく裏切られた。ユーロ圏財務相会合のデイセルブルム議長は「ギリシャの将来にとって非常に残念な結果となった」と述べた。

ギリシャとEUなど債権者側は、凍結状態にある金融支援の再開に向けて5カ月前から協議を進めてきたが、年金削減、付加価値税(VAT)といった構造改革を求めるEU側と、厳しい財政緊縮に反発するギリシャの新政権が真っ向から対立し、調整が難航。ギリシャはEUによる金融支援の期限が6月30日となっており、同日までに融資再開の条件となる財政改革案で合意できなければ、同日が期限の国際通貨基金(IMF)への15億ユーロの債務返済に行き詰まる状況にあった。

財政改革については、先月下旬に合意に近づいたかに思われたが、ギリシャが緊縮策受け入れの是非を問う国民投票の実施を決めたことで状況が暗転し、EUは30日に支援を打ち切った。また、EUはギリシャ政府がデフォルト回避に向けて要請した新たな金融支援を拒否。IMFも返済期限延長要請を退けられたことから、ギリシャは30日にIMFへの債務返済ができず、事実上のデフォルトに陥った。欧州中央銀行(ECB)が28日、「緊急流動性支援(ELA)」に基づくギリシャの銀行に対する資金繰り支援の上限据え置きを決定し、追加支援を行わないことを決めたこともあって、29日から銀行を閉鎖し、資金の移動を制限する資本規制を導入する事態に追い込まれた。

国民投票で緊縮策が受け入れられた場合は、ギリシャ政府はチプラス首相が退陣した上で交渉を再開し、EUの要求に応じた財政改革で合意して問題が決着し、当面の危機を乗り切ることができる見通しだった。しかし、今回の結果を受けて、チプラス首相は強気の姿勢を維持し、EUに譲歩を迫ることになる。金融支援の再開だけでなく、債務の減免も求めていくとみられる。

ただ、EU側はドイツがギリシャの対応への不満を募らせるなど、妥協に応じるのは難しい情勢。独ガブリエル副首相は「ギリシャは妥協への最後の橋を破壊した」と述べ、交渉の余地は少ないとの考えを示した。

EU側が交渉再開に応じたとしても協議が難航するのは必至で、早期に妥結する可能性は低い。ギリシャは民間銀行の資金が枯渇しており、預金の引き出し制限を延長せざるを得ない状況に追い込まれる。ECBが6日の理事会で、資金繰り支援の拡大に応じるかどうかが目下の焦点となる。同支援が拡大されなければギリシャの銀行は危機的状況に陥るため、政府が非常手段として第2の通貨を導入して危機を乗り切ろうとするとの観測も浮上してきた。これはユーロ離脱の序章となりかねない事態で、バルファキス財務相は否定しているが、仮に実施されると一気に離脱の流れが加速する可能性がある。

■ギリシャ財務相は辞任

一方、ギリシャのバルファキス財務相は6日、辞意を表明した。政府が自身に代わる新財務相を立てることで、EUとの再交渉を進めやすくなると判断したと説明している。

バルファキス財務相はユーロ圏財務相会合でギリシャの立場を代弁してきたが、財政改革をめぐって激しくやり合うことが多く、先週にはギリシャの意向を無視して厳しい緊縮策を押し付けようとする債権者側を「テロロスト」と形容し、反発を招いていた。

同財務相はツイッターで、「ユーロ圏財務相会合の参加者の一部が、私がいないことを望んでいることを感じ取った」とコメント。自身の辞任が交渉での合意に寄与するとチプラス首相が判断しているとして、身を引くことを決めたと説明した。