欧州委員会は9日、クレジットカード大手マスターカードが適用している決済手数料に関するルールがEU競争法に違反した疑いがあるとして、同社に異議告知書を送付したと発表した。欧州委はマスターカードが不当にカード決済のコストをつり上げ、域内の小売業者や消費者に損害を与えているとの見方を示している。マスターカードには反論の機会が与えられるが、最終的に欧州委が競争法違反と認定した場合、巨額の制裁金が科される可能性がある。
欧州委が問題視しているのは、EU域内の国境を越えた取引と、域外で発行されたカードを域内で使用する際に発生する手数料。「インターチェンジ・フィー」と呼ばれる決済手数料は決済代行銀行がカード発行銀行に支払うものだが、実際は加盟店が負担しており、最終的に小売価格に転嫁されてカード会員以外の消費者にも影響が及んでいる。
EUでは今年12月からクレジットカードやデビットカードによる決済時の手数料に上限を設ける規制が導入されることになっているが、現在も手数料は国によってばらつきがある。欧州委によると、マスターカードのシステムでは域内のある国の加盟店が手数料の安い国の銀行を使って決済できない仕組みになっており、こうしたルールによって国境を越えた銀行間の公正な競争が阻害されているとの見方を強めている。
一方、EU域外で発行されたカードを域内で使用するケースでは、手数料の最低額が「作為的」に高く設定されていると指摘。たとえば中国人旅行者がブリュッセルのレストランでマスターカードを使用する場合の手数料は、欧州で発行されたカードで決済する場合に比べて最大5倍に上るという。
欧州委によると、EU内では現金以外の手段による決済のうち、クレジットカードやデビットカードによる支払いが約40%を占めており、年間約100億ユーロの手数料が加盟店から銀行に支払われている。12月に導入される「インターチェンジ・フィー規則」は、幅広いペイメントカードにEU共通の規制を適用して手数料水準を全体として引き下げ、消費者の負担軽減を図ることを目指しており、クレジットカード決済にかかる手数料は利用額の3%が上限となる。