欧州議会は8日の本会議で、EU・米間の環大西洋貿易投資連携協定(TTIP)交渉に関して欧州委員会への要求をまとめた決議を賛成多数で可決した。最大の焦点である投資家対国家の紛争解決(ISD)条項に関しては、完全に独立した仲裁人が常駐する新たな仲裁機関の設置や上訴制度の導入などを要求している。欧州委は勧告の内容を踏まえ、7月13-17日にブリュッセルで行われる第10回交渉に臨む。
EUと米国は貿易と投資に関するあらゆる障壁の撤廃を目指し、2013年7月にTTIP交渉を開始したが、ISD条項のほか食品・医薬品・自動車などの安全基準、環境保護や個人情報保護などに関連した規制の調和などをめぐって協議が難航している。ISD条項は投資先の法律や制度が変更されたことで外国企業が損害を受けた場合、その企業が当該国を相手に中立的な国際機関に仲裁を申し入れ、制度の廃止や賠償を請求する権利を認める規定。海外で活動する企業にとってメリットがある反面、国家の規制権限が制限される側面もある。このためEU内ではTTIPに同条項が導入された場合、幅広い分野でEU側が譲歩を迫られ、結果的に消費者が不利益を被るといった懸念が広がっている。
欧州議会は決議文で、世界貿易の約3割を占める巨大貿易圏で高いレベルの市場開放を実現し、とりわけ域内の中小企業が米市場に参入しやすい環境をつくることがEU経済の成長につながるとしたうえで、投資家保護、食品や医薬品、自動車などの安全基準、環境保護、個人情報保護などの分野でEU基準を堅持する必要があると指摘。焦点のISD条項に関しては、事案ごとに設置される私的仲裁機関に依存する現行システムに代わり、公正で透明性の高い新たな仲裁制度を確立する必要があると指摘。具体的には◇企業や団体などと利害関係を持たない独立した仲裁人が常駐する仲裁機関の設置◇一般市民の参加を保証する公聴会の実施◇上訴制度の導入—-などを求めている。
欧州議会はまた、欧州企業による市場アクセスの改善や競争力強化に向け、公共調達を含む非関税障壁の撤廃を実現する必要があると指摘。欧州委に対し、米国が導入している航空会社など輸送部門における外資規制の廃止を求めるよう勧告している。このほか農業分野では、輸入増加に伴い域内の事業者に深刻な影響が及んだ場合、一時的に輸入を制限できる「セーフガード条項」を協定に盛り込むことや、地理的表示(GI)保護制度の維持、EUが定める高いレベルの食品安全基準の堅持などを提言している。さらに、規格・基準の調和や相互承認を通じて規制面での協力を推進する一方、遺伝子組み換え(GM)作物やクローン動物など、欧米間で安全性や認可基準に「大きな隔たり」がある分野については「譲歩すべきでない」と強調している。