欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2015/9/7

EU情報

欧州委が難民受け入れの分担義務化を再提案へ、東欧諸国の反対で協議は難航必至

この記事の要約

中東やアフリカから欧州諸国に流入する移民や難民が増え続けている問題で、欧州委員会はすべてのEU加盟国に難民受け入れの分担を義務付ける制度の導入を再提案する方針を固めた。欧州委の報道官が4日、明らかにした。ユンケル委員長が […]

中東やアフリカから欧州諸国に流入する移民や難民が増え続けている問題で、欧州委員会はすべてのEU加盟国に難民受け入れの分担を義務付ける制度の導入を再提案する方針を固めた。欧州委の報道官が4日、明らかにした。ユンケル委員長が9日に欧州議会で行う一般教書演説で、受け入れ分担の具体案を盛り込んだ新たな難民対策を打ち出す。ただ、ハンガリーなど東欧諸国は義務化に強く反発しており、協議は難航が必至の情勢だ。

欧州委は5月、地中海を渡ってイタリアとギリシャに押し寄せる大量の移民や難民に対応するため、両国に到着する難民を対象に、向こう2年間に最大4万人を受け入れる方針を表明。EU各国の経済規模や既に受け入れている難民の数などに応じて割当人数を決め、受け入れを義務化する制度の導入を提案した。しかし、受け入れに消極的な東欧諸国などの強い反対で合意できず、妥協策として自主的な受け入れに方針転換。その結果、7月末までに各国が申告した受け入れ人数は3万2,000人程度にとどまった。

ただ、その後も域内に流入する難民らが増え続け、特にトルコからギリシャ経由で陸路ハンガリーに入るシリアやイラクなどからの移民・難民が急増したことから、欧州委は受け入れ人数を大幅に拡大するとともに、各国に分担を義務付ける制度を改めて提案することを決めた。イタリアとギリシャに加え、新たにハンガリーに到着する難民も対象に、当初の4倍にあたる計16万人の受け入れを提案する。

一方、EU加盟国は5日、ルクセンブルクで非公式の外相会議を開き、難民問題への対応策を協議した。独仏伊の外相はこれに先立ち、加盟国に難民受け入れの分担を義務化するほか、ハンガリーが国境に有刺鉄線の柵を設けて移民や難民の流入を阻止しようとしたり、自国にたどり着いた人々に対し、難民申請の手続きを行わずにブダペストの駅に放置している現状を念頭に、難民が最初に到着した国に登録手続きを義務付けた「ダブリン協定」の改定を目指すことで一致。一方、経済的な理由から欧州に押し寄せる移民については本国への帰還を促すため、送還しても安全が保障される国のリストを作成することで合意した。メルケル独首相とオランド仏大統領も3日、加盟国が難民の受け入れを分担する制度を導入するとともに、ギリシャとイタリアにEU主導で難民の登録手続きを行うための拠点を設置し、難民認定を迅速化することで一致した。

外相会議では独仏伊が事前の合意内容を提案し、受け入れ分担の義務化などについて協議した。しかし、ハンガリーをはじめとする東欧諸国などは、EU域外との国境管理を強化して移民や難民の流入を抑えることを優先すべきだと主張。義務的な割当制度を受け入れることはできないとの立場を強調した。ハンガリーのオルバン首相は4日、受け入れ分担の義務化は結果的に欧州を目指す不法移民を増やすことになると指摘。「移民問題はドイツの問題だ」などと発言し、受け入れに寛容な同国の対応を批判した。チェコのホバネツ内相も、移民や難民にとって最終目的地は経済的に豊かな西欧諸国だと指摘。受け入れの義務化は「彼らの希望に反する」と強調した。

こうしたなか、ドイツとオーストリアは4日、シリアやイラクなどを逃れてハンガリーにたどり着いたものの、登録手続きが行われないまま放置されていた難民の受け入れに合意した。首都ブダペストの主要駅などで足止めされていた大量の移民や難民が徒歩で隣国オーストリアに向かうなど、混乱が拡大したことを受けた異例の措置。これを受けてハンガリー政府は5日未明、およそ100台のバスを用意してオーストリア国境への移送を開始。オーストリアには同日、8,000人を超える難民らが入国し、その大半がドイツに向かった。

EUは今月14日にブリュッセルで内相・法相理事会を開き、ユンケル委員長が打ち出す新たな難民対策について協議する。10月15、16両日に予定される首脳会議での合意を目指すが、シュタインマイヤー独外相は5日の外相会議終了後、首脳会議を前倒しして政策決定を急ぐべきだとの考えを示した。