欧州委員会は8日、EU域内の他の国に一時的に派遣されて就労する「海外派遣労働者(posted worker)」の権利保護を強化するための法案を発表した。海外派遣労働者が受け入れ国における同業種の労働者と同等の条件で働けるよう、1996年に制定された「海外労働者派遣指令」を改正する。
海外派遣労働者はEU域内に拠点を置く企業に雇用され、他の加盟国に一時的に派遣される労働者を指し、受入れ国で請負業務に従事したり、域内の複数の国で事業展開する企業内での国境を越えた異動、さらに派遣業者が他の加盟国に人材を派遣する場合などが該当する。欧州によると、こうした海外派遣労働者は2010年からの4年間で45%増加し、14年には約190万人が域内の他の国に派遣された。
海外労働者派遣指令は送り出し企業に対し、派遣労働者に現地の労働法制を適用するよう義務付けており、これには労働時間の上限や休憩時間、最低賃金、有給休暇、職場における安全衛生などが含まれる。しかし、労使間の労働協約に関して全般的な適用が制度化されていない国では企業ごとの協約締結が基本となるため、送り出し企業に労働協約の締結やこれに基づく労働条件の遵守を義務付けることができず、04年に旧東欧諸国がEUに加盟すると、海外派遣労働者が現地の労働者より低い条件で就労するケースが急激に増えた。
こうした問題に対処するため、14年には海外派遣労働者指令の実施を促進するための新たなルールが整備されたが、現在でも海外派遣労働者の報酬や社会保障の水準は国によって大きなばらつきがある。
欧州委が提示した改正案の柱は、海外派遣労働者に支払われる報酬に関して、従来のように最低賃金だけでなく、ボーナスやその他の手当てについても同業種の現地労働者と同じ条件の適用を義務付けるという内容。また、派遣業者が他の加盟国に人材を派遣する場合、派遣労働者に関する受け入れ国のルールを適用しなければならない。さらに、他の加盟国への派遣期間が2年を超える場合、送り出し企業は労働者の権利保護に関する受け入れ国の法律を遵守することが義務付けられる。