欧州委員会は25日、域内におけるデジタル単一市場の実現を目指す取り組みの一環として、国境をまたぐ電子商取引と動画配信などの視聴覚メディアサービスに関する新たな規制案を発表した。EU市民が域内のどこにいても、同じ条件でネット通販や加入しているコンテンツ配信サービスを利用できるようにすることや、動画配信事業者に対し、取り扱うコンテンツの少なくとも20%を欧州で制作された作品とするよう義務づけることを柱とする内容。国ごとに異なる規制や制度の壁を取り除き、国境を越えたオンライン取引やコンテンツ流通を促すのが狙いだ。
EUは高速インターネットを基盤とした「デジタル経済」の活性化を成長戦略の柱と位置づけている。欧州委はこうした方針に沿って昨年5月、域内のデジタル市場を統合して単一市場を実現するための重点政策をまとめ、デジタル社会に即した規制や制度のあり方について検討を進めてきた。
電子商取引に関する規制案によると、EU内で事業展開するオンライン小売業者などが「ジオブロッキング(地理的制限)」を設けて国外の消費者がサービスを利用できないようにしたり、居住する国のサイトに誘導して同じ商品を高い値段で販売するといった「差別的扱い」が禁止される。一部でみられる国境をまたいだオンライン取引を制限する商慣行を排除するのが狙いで、米アマゾン・ドット・コムをはじめとするネット通販や米イーベイなどのインターネットオークション、米ネットフリックスなどの動画配信サービスのほか、レンタカー、宿泊、各種チケットのオンライン予約など幅広いサービスが規制の対象となる。
定額制のコンテンツ配信サービスをみると、たとえばネットフリックスに加入しているオランダ在住の会員がフランスを旅行する際、現在はネットフリックスがフランスの会員向けに提供している動画しか視聴できない。これはコンテンツ提供者が特定の地域以外での配信を許可していない場合、ユーザーとサービス提供者の地理的関係によってオンラインサービスへのアクセスが制限されるジオブロッキングによるものだ。新たな規制が導入されるとこうした地理的制限が排除され、サービス加入者は域内のどこにいても同じコンテンツを視聴できるようになる。
一方、欧州委は2010年に制定された「視聴覚メディアサービス指令」改正案の柱として、動画配信事業者に欧州で制作されたコンテンツの枠を確保するよう義務づけるルールを提案した。テレビ放送に関しては、文化の多様性を保護する目的から、欧州で制作されたテレビ番組や映画を全体の20%以上とすることを域内の放送事業者に義務づけている。欧州委は若年層を中心にテレビ離れが進む一方、ネットフリックスやアマゾン・プライムなどの利用者が急速に増加している現状を踏まえ、動画配信サービスにもテレビ放送と同様のルールを適用すべきだと説明している。
視聴覚指令の改正案にはこのほか、テレビ広告に関する規制を一部緩和する措置も盛り込まれている。動画配信サービスの普及を背景に、多くのテレビ局が収益悪化に直面している現状を改善するのが狙いだ。具体的には午前7時から午後11時までの放送時間のうち、コマーシャル(CM)の放送分数を20%以下に抑えるルールは維持する一方、1時間当たりのCM放送分数を最大12分に制限する規制は撤廃するという内容。欧州委はテレビ局がより柔軟にCMを流せるようにすることで広告収入が増え、番組制作により多くの資金を投入できるようになって競争力の強化につながると説明している。