欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2016/6/27

EU情報

英国民投票で離脱派勝利、EUが最大の試練に直面

この記事の要約

英国で23日に実施されたEU離脱の是非を問う国民投票は、離脱派が僅差で勝利し、同国のEU脱退が決まった。EUで加盟国が離脱するのは初めて。EUは1993年の発足から続けてきた拡大路線がつまずき、最大の正念場を迎える。英選 […]

英国で23日に実施されたEU離脱の是非を問う国民投票は、離脱派が僅差で勝利し、同国のEU脱退が決まった。EUで加盟国が離脱するのは初めて。EUは1993年の発足から続けてきた拡大路線がつまずき、最大の正念場を迎える。

英選挙管理委員会が24日発表した最終集計によると、「離脱」は1,741万742票(51.9%)、「残留」は1,641万1,241票(48.1%)で、離脱派の勝利が確定した。投票率は72.1%だった。英キャメロン首相は離脱派の勝利を受けて、24日に辞意を表明した。

国民投票実施が決まった当初は、世論調査で残留派が大きくリードしていた。しかし、中東欧諸国や中東からの移民・難民の流入を制限するためには、英国がEUを脱退して主権を取り戻す必要があると主張する離脱派が徐々に勢力を拡大し、最近の調査では優勢を保っていた。離脱が英経済に大打撃を与えるとして現状維持を呼びかける残留派は、残留を支持していたジョー・コックス下院議員が16日に殺害された事件を契機に巻き返し、直前の調査では優勢とされており、世界の金融市場では一時、安堵が広がった。

それだけに今回の結果は大きな衝撃を与え、欧州をはじめとする金融市場では動揺が広がり、24日に株価が急落。外国為替市場では結果発表直後にポンドが急落し、対ドルで31年ぶりの安値となった。

キャメロン首相は13年1月、移民流入急増などを受けて高まっている国内の反EU勢力の不満を抑えるため、次回の総選挙で与党・保守党が勝利し、自身が再任されればEU離脱の是非を問う国民投票を実施する意向を表明した。政権の延命と引きかえに危ない橋をわたる選択をした格好だが、EU離脱が英経済に及ぼす影響をアピールすることで乗り切れると踏んでいた。経済界やエリート層の多くも残留を強く呼びかけた。

しかし、国内では若い世代が残留を支持した一方で、経済のグローバリゼーションの恩恵を受けない労働者階級を中心に、現状への不満のはけ口としてEU離脱を求める動きが広がった。こうして国民投票が現在の政権や体制に対する信任投票の様相を呈したことも、残留派敗北の要因になったとの見方が出ている。

これを裏付けるように、富が集中するロンドン、リバプール、グラスゴーなど大都市圏では残留支持票が過半数を占めたが、労働者が多い地域では軒並み離脱派が上回った。

離脱、通告から2年後に

英国は今後、EUに離脱を正式に通告してから、離脱に向けた交渉をEUと進めることになる。離脱に関する手続きを定めたEU基本条約の第50条では、離脱通告から2年以内に交渉を完了するという規定があるが、加盟国の全会一致で同期間を延長することができる。

離脱交渉では、英国がEU加盟国として負っている義務、責任(EU予算への拠出など)から、どのように手を引くかといった懸案から、他の加盟国に居住する英国人の処遇など細かい面まで、多岐にわたる項目を処理する。複雑な問題が絡んでいることから、交渉の難航が必至の情勢だ。

さらに、英国はEU単一市場に参加できなくなることから、離脱交渉とは別枠でEUとの新たな貿易協定締結に向けた交渉を行わなければならない。こちらの交渉は、加盟国の多数決で決まる離脱交渉とは異なり、全会一致の合意が求められ、各加盟国による批准も必要となるため、短期の決着は容易でない。英フィナンシャル・タイムズは「世界史上で最も複雑な離婚」と形容し、すべての交渉を終えるまで10年以上を要することもありうるというEU筋の見方を伝えた。

このほか英国は、EUが世界各国と締結している貿易協定の対象外となるため、各国と個別に新たな協定を結ぶ必要があり、これにも時間がかかる。

英政府はEU離脱を“軟着陸”させたい考えで、準備期間を稼ぐために交渉開始を遅らせたいという思惑があるもよう。キャメロン首相は辞意を表明した際、与党・保守党の年次党大会が開催される10月まで続投し、EUへの離脱通告を新首相に委ねる方針を示した。これに対してEU内では早急の通告を求める動きが出ている。トゥスク大統領(欧州理事会常任議長)とユンケル欧州委員長、欧州議会のシュルツ議長、EU議長国オランダのルッテ首相は24日発表した共同声明で、「(交渉の)遅延は不透明感を不必要に長引かせる」として、英政府に「できる限り早く」行動するよう促した。

EUにとって主要国の英国の離脱は大きな痛手。特に懸念するのが、他の加盟国への連鎖反応だ。域内ではオランダ、フランスなどで反EUの極右政党が台頭しており、英国に続いて離脱の是非を問う国民投票の実施を求める動きが出る恐れがある。トゥスク大統領は24日の記者会見で「EUは27カ国の結束を維持するつもりだ」と述べ、こうした動きをけん制。また、EUが28、29日に開く首脳会議に伴い、英国を除く27カ国の首脳による会合を開き、今後の対応を協議する方針を示した。

英も分裂の危機に

一方、英国も今回の決定によって、大きな混迷期を迎える。経済に及ぼす影響は未知数で、大手格付け会社のムーディーズは24日、英国の長期信用格付けの見通しを「ステーブル(安定的)」から「ネガティブ(弱含み)」に引き下げ、最上級の「Aa1」からの格下げを示唆した。政府は経済に及ぼす悪影響を最小限に抑えるため、EUに関税などで特別な扱いを受けることを求める可能性があるが、EU側は新たな離脱を防ぐため、甘い対応はできず、厳しい姿勢で交渉に臨むとみられる。トゥスク大統領らが英国を突き放すように早期離脱を促したのにも、こうした背景がある。

また、国の行く末を左右する投票は、まさに国論を二分し、世代・階層間の亀裂が浮かび上がった。さらに、国内分裂の危機にもさらされる。連合王国を形成するイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドのうち、スコットランドと北アイルランドでは残留派が過半数を制したためだ。14年に英国からの独立の是非を問う住民投票を実施したスコットランドでは、残留票が62%とEU残留を望む声が強く、独立してEUにとどまろうとする動きが浮上。自治政府のスタージュン首相は24日、2年以内に住民投票を再実施する意欲を示した。北アイルランドでも、アイルランド民族主義政党のシンフェイン党が、英から独立してアイルランドと統合するための住民投票実施を呼びかけた。

(この記事は、24日に配信した速報に大幅な加筆、修正を行ったものです)