欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2016/7/11

EU情報

スペイン・ポルトガルを財政規律違反と認定、初の制裁発動か

この記事の要約

欧州委員会は7日、スペインとポルトガルがEUの財政規律に違反していると認定し、制裁手続きに着手したことを明らかにした。加盟国が財務相理事会で違反認定を承認すれば、両国は国内総生産(GDP)の最大0.2%に相当する制裁金の […]

欧州委員会は7日、スペインとポルトガルがEUの財政規律に違反していると認定し、制裁手続きに着手したことを明らかにした。加盟国が財務相理事会で違反認定を承認すれば、両国は国内総生産(GDP)の最大0.2%に相当する制裁金の支払いを命じられる可能性がある。財政規律をめぐる制裁発動は初となる。ただ、EUが英国の離脱決定で揺れる中、異例の制裁が両国で反EU派を勢いづかせるのは確実で、EUは難しい選択を迫られそうだ。

加盟国はEUの財政規律に基づき、単年の財政赤字をGDP比3%以内に抑えることを義務付けられている。違反した国は過剰赤字是正手続きを適用され、約束した是正を怠れば制裁対象となる。

スペインとポルトガルは金融危機の影響で財政が悪化し、09年から過剰赤字是正手続きを適用されている。スペインは16年、ポルトガルは15年までの是正を求められていた。しかし、両国は14、15年の赤字削減目標を達成できなかったため、欧州委は是正の努力を怠ったと判断。制裁発動の準備に入った。

加盟国は12日に開く財務相理事会で、欧州委の勧告に沿って両国を協定違反と最終認定するかどうかを決める。認定された場合は、欧州委が20日以内に制裁発動を提案するが、発動には財務相理の承認が必要となる。

EUは財政規律違反での制裁に慎重で、これまで発動を控えてきた。ルールを厳格に運用すれば対象となるはずだったフランスに対して、景気の急激な悪化など例外的な状況に陥っている場合は制裁を猶予するという規定を適用した例がある。スペインとポルトガル政府は、赤字削減目標は達成できなかったものの、財政再建は進んでいることを強調し、欧州委の決定に反発。スペインのデギンドス経済相は7日、「スペインはユーロ圏で最も経済が成長しており、どの国よりも改革を実現してきた。制裁はナンセンスだ」として、「制裁はないと確信している」と述べた。

両国は財務相理が12日に勧告を受け入れた場合、10日以内に反論する機会が与えられる。そこで例外的な状況にあると主張し、理解を得られれば制裁を回避できる。加盟国ではドイツがルールの厳格な適用を求めると目されるが、フランス、イタリアなどが英国の離脱が決まった直後だけにEUの結束が必要で、財政引き締めの強要が域内の景気回復を圧迫するとして、擁護に回る見込みだ。

欧州委としても、こうした状況下での制裁発動には慎重にならざるを得ず、モスコビシ委員(経済・財務・税制担当)は7日の記者会見で、「我々には対話の用意がある」と述べ、両国が新たな赤字是正策を提示する形で、事態を収めることに前向きの意向を表明。ドムブロフスキス副委員長は、緩やかな制裁にとどまるか、制裁に至らない可能性もあるとの見解を示した。