伊で金融危機の懸念拡大、政府がEUと対応協議

英国の離脱で揺れるEUで、巨額の不良債権を抱えるイタリアの銀行の経営不安が新たな問題として急浮上している。英の離脱決定で経営環境が一段と悪化するとの懸念が広がり、株価が急落しているためだ。とくに3位銀行モンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ(BMPS)の状況が深刻で、伊政府はEUの欧州委員会、欧州中央銀行(ECB)と同行救済に向けた協議を進めている。

イタリアの銀行は2011年から14年まで続いた景気後退の影響で、不良債権が総額3,600億ユーロ程度まで膨らんでいる。ユーロ圏の不良債権の3分の1に上る規模だ。これが金融不安を招き、同国の景気回復の足かせとなっている。

こうした状況がさらに深刻化したのは、英国のEU離脱問題が域内の景気を圧迫し、イタリアの銀行の不良債権処理が一段と困難になるとの懸念が広がったため。国内銀行の株価指数は離脱が国民投票で決まった6月23日以降に約30%下落し、年初来の下げ幅は50%を超えた。イタリアはユーロ圏第3の経済国であることから、同国の金融危機が圏内の他の国にも波及する恐れも浮上している。

BMPSをめぐっては、不良債権が469億ユーロと巨額に上ることから、ECBは4日、不良債権を18年までに30%減の326億ユーロまで圧縮するよう指示。10月3日までに不良債権処理計画を提示するよう求めた。これを受けて同行の株価下落が加速し、イタリアの証券規制当局が同行の株式の空売りを6日から禁止する事態に発展した。

伊政府と欧州委員会は今年1月、不良債権処理策で合意。銀行が不良債権を証券化し、売却を進めることになった。政府が不良債権買い取りを促進するため、保証を供与し、買い手のリスクを軽減することが盛り込まれた。これに基づいて政府は4月、厳しい状況にある銀行を支援する50億ユーロ規模の民間基金「アトランテ・ファンド」の創設を決めた。

伊政府は当初、公的資金を使って不良債権処理を進めたい考えだったが、EUのルールに抵触するため、民間の大手銀行などが拠出する同基金に頼らざるを得ない状況にある。しかし、アトランテ・ファンドの資金は小規模で、BMPSだけでも対応しきれないことから、欧州委、ECBと協議を開始した。

ここで問題となっているのは、ユーロ圏の銀行の破綻処理一元化に伴って導入された「ベイルイン」制度。危機に直面する銀行に「単一破綻処理基金」と呼ばれる共通基金を使って資金を注入する前に、対象銀行の債権者と大口預金者に負担を迫るというものだ。イタリアのレンツィ首相は、これでは国内の個人投資家に大きな損害が生じ、政府への批判が強まって政権が揺らぎかねないため、今回の事態では例外的に、まず公的資金を活用することを求めている。6日付の伊有力紙レパブリカは、欧州委が金融危機の波及を食い止めるため、これを認める方針だと報じた。ただ、ドイツがルールを曲げることに反対しており、実現するかどうかは不透明な情勢だ。

消息筋によると、伊政府は欧州銀行監督機構(EBA)がEU内の銀行を対象とする最新のストレステスト(健全性審査)の結果を公表する7月29日までに、EU側と銀行支援策で合意したい考え。同テストではBMPS以外のイタリアの銀行も“不合格”と判定される可能性があるため、合意に基づく支援策を他行にも適用していく方針だ。

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