英国のEU離脱に向けた交渉の責任者であるデービス離脱交渉担当相は5日、英下院で演説し、EUと自由に貿易できる体制を維持しながら、移民受け入れを制限する権利を勝ち取ることを目指し、交渉に臨む方針を示した。同相が議会で交渉方針を表明するのは、7月に就任してから初めて。ただ、具体的な案は示さず、野党から批判を浴びた。
英国が国民投票でEU離脱を決めたのは、中東欧のEU加盟国からの移民流入が急増し、同国の社会保障や雇用を圧迫しているという批判が強まったことが最大の要因。7月に発足したメイ首相率いる新政権にとって、移民制限は離脱交渉で譲れない一線だ。しかし、EU側は、域内の人の自由な移動を受け入れず、資本、モノ、サービスの自由な移動の恩恵を受けることは認められないという姿勢を堅持しており、英国が望むEU単一市場へのアクセス確保を実現するためには、何らかの妥協が必要とみられている。
移民制限をめぐっては、国民投票に際して離脱推進派が、対象者の資格、学歴などをポイント化し、点数が一定水準に達した人に限って受け入れるという「ポイント制度」導入を提唱していた。しかし、メイ首相はこのほど同案に反対する方針を打ち出したため、より緩やかな制限にとどめようとしているとの見方が出ている。
これについてデービス離脱交渉担当相は、移民制限を最優先に交渉をまとめる意向を表明。同問題で妥協せずに、EU単一市場にアクセスすることが可能との見解を示した。しかし、具体的にどのように交渉を進めるかについては一切触れなかった。このため、野党・労働党からは、見通しが楽観的過ぎるとの批判が噴出。影の外相であるエミリー・ソーンベリー議員は「彼の前向きなビジョンは夢物語にすぎない」と痛烈に非難した。
一方、英国のメイ首相は8日、EUのトゥスク大統領(欧州理事会常任議長)とロンドンで会談した。両者の個別会談はメイ首相が就任してから初めて。EU側は早期の離脱交渉開始を求めているが、メイ首相は準備期間が必要として、交渉開始の前提となる離脱通告を年内に行わない方針を確信した。