欧州委が通信規制改革と著作権制度見直しを提案、デジタル単一市場の実現に向け

欧州委員会のユンケル委員長は14日に欧州議会で行った一般教書演説で、デジタル単一市場の実現に向けた取り組みの一環として、電気通信分野の規制改革と著作権制度の見直しを提案した。

電気通信分野ではEU全域で光ファイバーによる超高速ブロードバンドの基盤整備を進め、2025年までに域内の大学や学校、研究機関、病院、行政機関、デジタル技術への依存度が高い企業などから1Gbps(1,000Mbps)のインターネットサービスを利用できるようにするとともに、農村部を含めた域内のすべての世帯で少なくとも下り100Mbpsのインターネットサービスを利用できるようにする。さらに、同年までに域内のすべての都市部と幹線道路および鉄道沿いで第5世代(5G)モバイル通信システムの実用化を目指し、第1段階として、20年までにEU各国の少なくとも1都市で商用サービスを開始する。

欧州委はこうした目標を実現するため、超高速ブロードバンド網への投資促進策などを盛り込んだ「電気通信法典(Electronic Communications Code)」を提示した。欧州委によると、25年を達成期限とする超高速インターネット接続を実現するには今後10年間に5,000億ユーロの投資が必要だが、現在のところ民間からの投資が当初の計画を1,550億ドル下回っている。このため欧州委は複数の通信事業者が共同で光ファイバー網の整備を進めることができるようにしたり、ブロードバンドサービス事業者への光ファイバー網の開放義務を緩和するなどして、早期に投資を回収できる仕組みの導入を提案している。

このほかインターネット経由でメッセージや音声、動画コンテンツなどを提供する「OTT(Over The Top)」サービスに対する規制が強化され、これまで通信事業者を対象としてきたネットワークのセキュリティや通信の秘密保持に関するルールがOTT事業者にも適用される。米マイクロソフトのインターネット電話「スカイプ」や、米フェイスブック傘下のメッセージングアプリ「WhatsApp(ワッツアップ)」をはじめとするOTTサービスをめぐっては、通信事業者と異なり、顧客の通信データや位置情報などの商業利用が許されているとして規制強化を求める声が高まっていた。

一方、インターネット時代に即した著作権制度の見直し案は、米グーグル傘下のユーチューブをはじめとする動画プラットフォームなどに対し、著作権侵害対策技術の実装を義務づけることが柱。現行ルールでは権利者が著作権侵害の申し立てを行い、プラットフォームがこれを受けて当該コンテンツを削除しているが、新ルールが導入されるとプラットフォーム側で投稿されたコンテンツが著作権を侵害していないかチェックし、違反コンテンツを削除しなければならない。著作権者の権利保護を強化するのが狙いだが、事業者のコスト負担を考慮して、小規模なプラットフォームは新ルールの適用が除外される。

著作権制度改革のもう一つの柱は、新聞社など報道機関が配信したニュースが検索サイトなどに掲載された場合、発行元がネット企業に使用料を請求できる仕組みの導入。グーグルや米フェイスブックなどを念頭に置いた措置で、ニュース記事の全文を掲載する場合だけでなく、記事の見出しやスニペット(短い抜粋)をまとめて表示するサービスも課金の対象となる。ただ、ドイツでは3年ほど前に「グーグル税」と呼ばれる同様の仕組みが導入されたものの、大手新聞社がグーグルニュースへの記事掲載を拒否した結果、新聞社が運営するウェブサイトへのアクセスが最大で8割減少する事態に陥った。こうした経緯があるだけに、欧州委の提案に対して各方面から有効性を疑問視する声が上がっている。

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