英国のメイ首相は20、21日に開かれたEU首脳会議で、来年3月末までに離脱を正式に通告する意向を表明した。また、離脱後も単一市場にとどまるなど、EUとの緊密な関係を保つため、離脱交渉で妥協する用意があることも明らかにしたが、移民制限にこだわる限り実現は難しく、交渉では厳しい立場にさらされそうだ。
メイ首相のEU首脳会議出席は、6月に就任してから初めて。同首相は今月初め、与党・保守党の党大会で、EUに離脱を3月までに通告することを明らかにしていた。首脳会議の初日に、同方針を正式に伝えた。
この通告を受けて開始される離脱交渉では、英政府は主権をEUから取り戻しながら、EU単一市場へのアクセス維持も取り付けることを理想の着地点としている。特に重視するのが、EUからの移民の受け入れを制限する権利を手にすることだ。しかし、EUは域内の人の自由な移動という原則に従わず、“いいところ取り”するのは容認できないとする姿勢を堅持しており、英国が移民制限を優先する“ハード・ブレグジット(強硬離脱)”を選ばざるを得ないという空気が強まっている。
EUは英国が離脱を通告するまで事前交渉には応じないことを決めており、今回の首脳会議では離脱問題に関する話し合いは行われなかった。メイ首相は首脳会議閉幕後の記者会見で、離脱後もEUと協調的な関係を維持していきたい考えを示し、「単一市場の枠内にとどまり、モノやサービスの貿易で可能な限りベストの取り決めを結ぶことを望んでいる」と発言。離脱交渉では「ギブ・アンド・テイクが必要になるだろう」と述べ、英国に妥協の用意があることを強調した。
メイ首相が融和的な姿勢を示したのは、“ハード・ブレグジット”を経済界や投資家が懸念し、英ポンド安が進んでいることなどが背景にあると見られる。しかし、移民制限とEU単一市場へのアクセスのどちらを優先するべきかについては、国内でも意見が分かれている。また、大きな焦点となる移民制限で妥協する余地はEU、英の双方とも小さい。EU側では仏オランド大統領が「(メイ首相にとって)交渉は厳しいものになるだろう」と述べるなど英国をけん制する発言が相次いでおり、メイ首相は離脱交渉で難しい選択を迫られることになる。