欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2014/6/23

EU産業・貿易

高リスク取引分離義務、適用除外は「違法」

この記事の要約

EUで議論されている銀行部門の構造改革に関する規則案をめぐり、加盟国の法律家で構成する専門委員会は16日、国内法で個人向け業務と投資銀行業務の分離が義務付けられている英国の銀行に対し、高リスク取引を制限するEUルールの適 […]

EUで議論されている銀行部門の構造改革に関する規則案をめぐり、加盟国の法律家で構成する専門委員会は16日、国内法で個人向け業務と投資銀行業務の分離が義務付けられている英国の銀行に対し、高リスク取引を制限するEUルールの適用を除外する規定は「違法」とする見解をまとめ、閣僚理事会に意見書を提出したもようだ。ロイター通信が報じた。欧州委員会は意見書に沿って加盟国から規則案の修正を迫られる公算が大きく、仮に適用除外を認める条文が削除された場合、重要分野での権限回復を主張する英国でEU離脱論が勢いづく可能性もある。

欧州委は今年1月、金融システムの安定化に向け「大きすぎてつぶせない銀行」のリスクに対処するため、大手銀行による自己勘定取引の禁止などを柱とする規則案を発表した。フィンランド中央銀行のリーカネン総裁を座長とする有識者グループが2012年にまとめた報告書(リーカネン・レポート)を土台にしたもので、米国の「ボルカー・ルール」のEU版と位置付けられている。

リーカネン・レポートは銀行システムの「最も重要な部分」を守るため、大手銀行に高リスク取引の分離を義務付けることを提案していたが、銀行業界は高リスク業務の完全分離が義務付けられた場合、融資が阻害されて実態経済に影響が及ぶなどと反論。欧州委は最終的に◇顧客向けの業務を伴わず、銀行が自らの利益を確保する目的で行う自己勘定での高リスク取引を原則として禁止する◇各国の規制当局に対し、個々の銀行による特定の取引がシステミックリスクを引き起こす可能性があるかどうかの判断に基づいて、個別にマーケットメーキング(値付け)、複雑なデリバティブ(金融派生商品)取引、証券化商品への投資など、リスクの高い業務の分離を命じる権限を与える――を柱とする規制案をまとめた。

EU法との整合性が問題になっているのは、高リスク取引の分離義務ルールに関して適用除外の条件を定めた21条の規定。これによると、規則案が発表された2014年1月29日以前の段階で、銀行に高リスク業務の分離を義務付ける国内法を制定している加盟国は、欧州委にEUルールの適用除外を申請することができる。英国では昨年12月、グループ内で預金の受け入れを中核とするリテール業務と投資銀行業務を分離する「リングフェンス」を柱とする銀行改革法(いわゆる「ビッカーズ改革」)が成立しており、適用除外の要件を満たしている。

ロイターが入手した意見書は、適用除外を認める規定はEUルールが国内法に優先するとの原則に反し、基準日の設定にも明確な根拠がないと指摘。法的観点から規則案の21条は妥当性を欠いていると結論づけている。