英国のEU離脱に関する同国とEUの交渉が依然として難航している。英国が支払う「清算金」をめぐる溝が埋まらないためで、9~10日に行われた第6回交渉会合は進展がないまま終了。EUのバルニエ首席交渉官は、通商など将来の関係に関する協議の開始を年内に決めたい英国側に対して、決着に向けて2週間以内に譲歩するよう求めた。
英国は2019年3月にEUを離脱する予定。離脱交渉の結果は欧州議会などの承認を得なければならないため、18年秋には交渉を妥結させる必要がある。
現在行われているのは英国が拠出を約束したEU予算の分担金など清算金の支払い、英国に居住するEU市民の権利保護、英国の北アイルランドと国境を接する加盟国アイルランドとの国境管理問題など、第1段階となる離脱条件に関する交渉。これに「十分な進展」があったとEU側が判断すれば、自由貿易協定(FTA)締結など将来の関係をめぐる協議に進むことになっている。
第1段階の交渉では最大の焦点とされる清算金の支払い額をめぐり、双方の主張に大きな隔たりがあり、協議が停滞している。今回の交渉も平行線をたどり、決着に至らなかった。
英国側は10月までに第2段階の交渉開始を取り付けることを目指していたが、同国を除くEU27カ国は10月20日に開いた首脳会議で、離脱条件をめぐる交渉が十分に進展してないと判断し、12月14、15日に開くEU首脳会議で同協議開始の可否を判断することを決めていた。
バルニエ首席交渉官は会合後の記者会見で、12月の首脳会議で第2段階の交渉開始を決めるためには、英国側の歩み寄りによって2週間以内に同問題で合意する必要があると発言。一方、英政府のデービスEU離脱担当相は、バルニエ首席交渉との協議が行き詰まっているため、状況を打開するためにはメイ首相と他の加盟国の首脳が直接話し合う「政治的な決着」が必要な段階にあると述べた。
離脱条件をめぐる交渉では、国境管理、EU市民の権利に関する協議は清算金問題と比べて進展しているが、最終決着していない。国境問題では、双方とも英国の北アイルランドとEU加盟国アイルランドの国境管理を離脱後も厳しくしないという方向では一致している。しかし、EU側はさらに進んで、北アイルランドがEU単一市場と関税同盟にとどまることを要求。これに対して英政府は、国内に国境線が生じるとして反発しており、調整が必要となっている。英国内に住むEU市民の権利保護では、家族の呼び寄せ、EU司法裁判所の管轄権などをめぐる問題が残っている。
ただ、英国ではメイ首相率いる保守党が6月の総選挙で少数与党に転落したほか、閣僚の辞任が相次ぎ、政権の求心力が低下しており、政府は離脱交渉で譲歩しづらい状況にある。このため通商協議入りの決定が来年にずれ込む事態も予想される。
一方、英政府は10日、EU離脱の日時が英国時間の19年3月29日の午後11時になると発表した。これまで離脱の日時は3月30日午前0時と定められていたが、これが英国時間(グリニッジ標準時)か、EU本部があるブリュッセルの午前0時なのか決まっていなかった。