EUで英国が協定を結ばないまま無秩序に離脱し、多くの分野で大混乱が生じる懸念が強まっている。離脱交渉が進まず、期限とされる10月までに合意できない可能性が出ているためで、欧州委員会は19日、こうした事態に陥った際に対応するための準備を強化するよう各加盟国に促す文書を採択した。
英国は2019年3月末にEUを離脱することになっている。離脱交渉の結果は欧州議会などの承認を得なければならず、その手続きに時間がかかることから、18年10月をめどに交渉を妥結させる必要がある。しかし、英国のメイ政権が与党内の意見調整に手間取り、離脱の明確な方針を打ち出せない状態が続いていたため、交渉が停滞。内閣は今月初めにようやく離脱後の通商関係を巡る交渉方針で合意したが、メイ首相がEUとの協調を優先する「ソフト・ブレグジット(穏健離脱)」路線に舵を切ったことに反発する動きが根強く、交渉が進展するかどうかは不透明な情勢だ。
欧州委の文書は、交渉が今後も進まず、時間切れで英国がEUと協定を結ばないまま離脱する事態を最悪のシナリオとして想定したもの。EUと英国は離脱直後に双方の関係が激変し、貿易などに大きな影響が及ぶのを避けるため、2020年12月末までを「移行期間」とすることで合意しており、同期間中は英国とEUとの関係は実質的に現状維持となる。しかし、移行期間の設定は離脱協定を締結するのが前提で、同協定を結ばない場合はいきなり「無秩序な離脱」の状況に放り込まれることになる。
欧州委はこうした事態に陥れば、国境管理、航空機の運航など多様な分野で取り決めがないまま英国が域外の第3国となり、物流などが大混乱して双方の経済に大きな悪影響を及ぼすと懸念。各加盟国の政府と企業に対して、準備を強化するよう要請。医薬品の認可など68項目について、対応の準備を進めるよう求めた。
一方、EUの英国を除く27カ国は20日に開いた総務理事会で、英国が内閣合意に基づいて12日に発表したEUとの将来の関係をめぐる交渉方針をまとめた「白書」について協議した。バルニエ首席交渉官は理事会後の記者会見で、英国の白書は「建設的な協議に道を開く」と歓迎しながらも、多くの疑問が残るとして慎重な姿勢を示した。
離脱後も工業製品や農産品の規格・基準に関してEUのルールに従うモノの自由貿易圏を創出することを柱とする内容。一方、EU域外の国と自由貿易協定(FTA)を締結し、自由な貿易の拡大を目指す方針で、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加を検討する。
バルニエ首席交渉官が疑問としているのは、EUの人、モノ、サービス、資本の自由な移動という原則がある中で、モノだけを切り離して自由な移動を認めるという英国案の妥当性など。
また、離脱協定で最大の難問となっている北アイルランドとEU加盟国アイルランドの国境問題について、英国がEUを離脱してからも人やモノの流れを制限しないようにするための方策をめぐって双方の主張に開きがあり、協議が進んでいないことにも懸念を示した。