性急なEVシフトは深刻な雇用喪失に、ACEAが警告

欧州自動車工業会(ACEA)は4日、ガソリンやディーゼル車から電気自動車への移行(EVシフト)が欧州自動車業界に及ぼす影響についてまとめた分析リポートを公表し、EU主導による性急なEV生産への転換は深刻な雇用喪失を招く恐れがあると警告した。EUが導入を検討している2030年を達成期限とする新たな排出ガス規制に関しても、欧州委員会は非現実的な削減目標が業界にもたらす悪影響を過小評価していると指摘している。

リポートはACEAの委託でFTIコンサルティングがまとめたもの。EVシフトが自動車業界のサプライチェーンにもたらす影響に関しては、電気自動車は従来型の自動車と比べて圧倒的に少ない部品点数で構成されるため、とりわけ中小企業を中心に部品メーカーが打撃を受けると指摘。製造コストの35~50%を占めるバッテリー(蓄電池)がEU域外で生産されることになれば、さらに深刻な影響が及ぶと警告している。

欧州では自動車産業に従事する就業者が製造部門の11%を占め、特に英国、ドイツ、イタリア、スウェーデン、チェコ、スロバキア、ハンガリー、ルーマニアの合わせて14地域ではこの割合が20%を超えている。リポートはEU主導で強引にEVシフトを進めた場合、こうした地域を中心に多くの雇用が失われ、EU経済に悪影響が及ぶと指摘した。

ACEAのヨナー事務局長はFTIリポートを踏まえ、「各メーカーはゼロエミッション車への移行を急いでいるが、欧州のサプライチェーンは雇用の維持と長期的な存続のため、制御可能なペースで転換を図る必要がある」と指摘。さらに「過度に厳格な排出規制や非現実的な電気自動車の販売割り当ては、EU全体で深刻な構造上の問題を引き起こす可能性がある」と警告した。

EUでは現在、新車の二酸化炭素(CO2)排出量を30年までに21年の目標に比べて3割削減することをメーカーに義務づける規制の導入が検討されている。欧州委は環境対応車への移行を促し、EV市場で欧州メーカーの競争力を高めるのが狙いと説明しているが、ACEAは既に世界で最も厳しい水準となっている21年時点の規制値から、CO2排出量をさらに3割削減する目標の達成は困難と強く反発している。新たな規制案は10日に欧州議会環境委員会で採決が行われる。

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