EUは3日開いた財務相理事会で、ユーロ建ての金融取引を扱うEU域外の清算機関に対する監督を強化する法案を採択した。英国のEU離脱に伴い、ロンドンに拠点を置く清算機関がEU規制の対象外となることを受けたもので、金融システムの安定を維持するために必要と判断した場合、清算機関に域内への移転を命じることなどを柱とする内容。欧州議会は5月に同法案を採択しているため、今後はEU議長国、欧州議会、欧州委員会の三者による交渉で最終合意を目指す。
英国はユーロ建て金融取引の中心地で、ロンドン証券取引所(LSE)傘下のLCHクリアネットはユーロ建て金利デリバティブ取引の大半を扱っている。EUは現在、英中銀のイングランド銀行を通じて間接的に監督できるが、離脱後は英国の清算機関がEUの規制から外れるため、欧州委は昨年6月に制度改革に向けた法案を提示した。
法案によると、域外の清算機関を金融システム上重要でないもの(Tier1)と重要なもの(Tier2)に分類し、重要でないものは従来通り「欧州市場インフラ規制(EMIR)」の下での運用を認める一方、「重要」とみなした清算機関に対する監督を強化する。具体的には担保要件や流動性要件などを厳格化し、立ち入り検査も行う。システム上重要かどうかの判断は、決済業務の規模や破綻した場合に域内の金融市場に及ぼす影響などをもとに、欧州証券市場監督局(ESMA)が見極める。
さらにシステム上重要な清算機関の中でも潜在的なリスクが大きく、とりわけ重要なものに関しては、監督を強化しても金融システムの安定確保に不十分と判断した場合、「最終手段」として強制的にEU内に移転させることができる。ESMAが欧州中央銀行(ECB)などと連携して判断を下し、最終決定権は欧州委が握る。
このほか法案には、自国に清算機関がある加盟国とEUの当局者で構成する「清算機関監督委員会」をESMA内に設置することが盛り込まれた。各国の中央銀行も委員会に参加できるが、議決権は持たない。