欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2019/1/28

EU情報

英首相がEU離脱代替案の基本方針発表、国境問題に絞り修正へ

この記事の要約

英国のメイ首相は21日、英議会で否決されたEU離脱案の代替案に関する基本方針を下院で発表した。英国の北アイルランドとEU加盟国アイルランドの国境管理問題をめぐる対応に絞ってEUから譲歩を引き出す。これによって与党・保守党 […]

英国のメイ首相は21日、英議会で否決されたEU離脱案の代替案に関する基本方針を下院で発表した。英国の北アイルランドとEU加盟国アイルランドの国境管理問題をめぐる対応に絞ってEUから譲歩を引き出す。これによって与党・保守党と北アイルランドの地域政党・民主統一党(DUP)内の強行離脱派の支持を取り付け、29日の採決での可決を目指す方針だ。しかし、EU側が修正交渉に応じるか不透明で、事態を打開できるか不透明な情勢となっている。

EUと英国は1年半に及ぶ交渉の末、英国の離脱条件を定めた離脱協定案について11月に合意した。しかし、英議会では離脱強硬派、離脱反対派の双方が同案に強く反発。下院で15日に実施された採決では、保守党からも100人以上が反対に回り、賛成202、反対432の大差で否決された。

その後の内閣不信任案をめぐる採決をかろうじて否決に持ち込み、続投を決めたメイ首相は21日までに、離脱案の代替案を提示することになっていた。

メイ首相は大幅な修正にはEUが応じず、かといって細かい修正では英議会の承認を取り付けられないという板ばさみ状態にある。国境管理問題についてEUと再交渉する方針を打ち出したのは、先の採決で反対票を投じた保守党および閣外協力するDUPの強硬離脱派が問題視する「バックストップ(安全策)」措置をめぐり、EUの譲歩によって反対派を懐柔し、可決に持ち込むことを狙っているため。離脱反対派が多い労働党を中心とする野党の支持を取り付けるのは不可能として断念し、与党とDUPの反対派の切り崩しによって事態を打開するという戦略だ。

バックストップは、国境問題の最終的な解決策で合意できない場合に、英国が3月29日に離脱してからも、期限付きで英国が関税同盟にとどまり、関税ゼロなど現在と同様の通商関係を維持するというもの。強硬離脱派は最終的な解決策を見つけるのは極めて難しいため、バックストップ措置が恒久化され、英国が事実上、関税同盟に残留する可能性があり、EUのルールに縛られるとして反発している。

メイ首相は代替案の詳細を明らかにしていない。「合意なき離脱」の可能性を排除しない限り協議には応じないとする最大野党・労働党を除く全党の意見を聞きながらまとめた上で、EUに再交渉を要求する。バックストップが一時的なものであることの法的な保証を取り付けることなどが焦点となるもようだ。

ただ、EUのバルニエ主席交渉官は21日、国境問題はこれから始まるEUと英国の将来の関係をめぐる協議で解決するべきもので、合意した離脱の修正には応じられないという姿勢を堅持。ポーランドのヤツェク・チャプトヴィチ外相は同日、メイ政権が苦境に陥っていることを考慮し、離脱案にバックストップの上限を5年間とすることを付け加えれば問題が解決するとの見解を示したが、他の加盟国の賛同は得られていない。

このため、代替案がまとまってもEU側の同意を取り付けることができるかどうか難しい情勢だ。「合意なき離脱」に至るのを防ぐため、離脱日を延期する案も取りざたされているが、メイ首相は延期に否定的な立場を崩していない。