EU加盟国は15日、工業製品の関税撤廃を目指す対米通商交渉の開始に向け、欧州委員会に交渉権限を付与することで合意した。EU側は欧州委の任期が満了する10月末までに一定の成果を得るため、速やかに交渉を開始したい考えだが、農産品は対象から除外されており、農業分野も含めた包括的な協議を求める米国の反発が予想される。
欧州委員会のユンケル委員長とトランプ米大統領は昨年7月の首脳会議で、自動車を除く工業製品の関税撤廃に向けて交渉を開始し、その間は米国がEUからの輸入自動車に対する追加関税の発動を見合わせることで合意した。農産品についてはEU内で反対意見が根強いため、当面は交渉の対象から除外する代わりに、EU側が米国産大豆の輸入拡大に応じることで合意。双方は高官級の作業部会を立ち上げて交渉入りの準備を進めてきたが、フランスがパリ協定から離脱した米国と新たな通商交渉に入ることに強く反対し、欧州委への交渉権限付与を5月の欧州議会選挙後まで見送るよう求めるなど、EU側の足並みが揃っていなかった。
EU加盟国は今回、農産品と政府調達は協議に含まない条件で欧州委への権限付与に合意したが、フランスは反対票を投じ、ベルギーは棄権した。フランスは米国から農業分野の協議を迫られた場合、欧州委に交渉権限はないため協議が行き詰まる展開を懸念しており、国内向けに反対の立場を貫く必要があったとみられる。
ボーイング補助金めぐり欧州委が対抗措置、報復関税リスト公表
一方、欧州委は17日、米国が航空機補助金をめぐり、110億ドル相当のEU製品に報復関税を課す方針を表明したことへの対抗措置を打ち出した。米側が実際に関税をかけた場合、200億ドル相当に上る米国からの輸入品に制裁関税を課すとして、対象候補となる品目リストを公表した。リストには航空機や化学製品、冷凍水産品、かんきつ類、ケチャップなど幅広い製品が盛り込まれている。5月末まで意見募集を行い、世界貿易機関(WTO)が算定する損害額に基づいて最終的な対象品目を決定する。
米通商代表部(USTR)は今月8日、EUによる欧州航空機大手エアバスへの不当な補助金によって米国は112億ドル相当の損害を受けたと主張し、報復関税の対象品目リストを公表した。航空機やヘリコプター、航空機部品のほか、乳製品、ワイン、オリーブ油など多岐にわたるEU製品がリストに含まれている。
EUと米国はエアバスとボーイングに対する補助金の違法性をめぐり、2004年からWTOを舞台に争ってきた。WTO上級委員会は昨年、EUによるエアバスへの補助金継続は不当との最終判断を下したのに続き、3月には米国によるボーイングへの補助金継続も不当と認定しており、約15年にわたる紛争は両者の痛み分けとなっている。