CETAの投資紛争処理制度、EU司法裁が「合法」判断

EU司法裁判所は4月30日、EUとカナダの包括的経済貿易協定(CETA)に盛り込まれた投資家と国家の間の紛争処理手続きについて、「EU法に合致している」との判断を示した。CETAは2017年9月に暫定発効したが、投資分野については保留になっており、司法裁の判断が待たれていた。CETAが全面的に発効すれば、投資家は進出先で差別的扱いを受けたり、法的権利を阻害されるなどの不利益を被った場合、新たに創設される常設の投資裁判所に訴えを起こすことになる。

投資分野を含む自由貿易協定(FTA)では企業と国家の紛争処理の枠組みとして、ほとんどのケースで国際仲裁制度である「投資家対国家の紛争解決(ISDS)」条項が盛り込まれている。しかし、同制度は仲裁手続きが非公開で透明性に欠けるうえ、企業が選定した仲裁人がある国の公益的政策を評価することで、国家の正当な規制権限が損なわれるといった批判がある。

特にEUでは厳しい環境基準や食の安全、労働者の権利保護などに関するルールが国際商事仲裁を通じて違法化されるとの懸念が根強く、ISDSに代わる紛争処理メカニズムとして二審制の「投資裁判所制度(ICS)」を提唱。新たに結ぶ全てのFTAにICSの導入を盛り込む方針で、これまでにシンガポール、ベトナム、カナダが同制度を受け入れている。

CETAはEUが主要7カ国(G7)と結んだ初めてのFTA。貿易品目の約98%で関税が撤廃され、EU・カナダ間の貿易はおよそ20%拡大するとみられている。ただ、EU内でグローバル化に反対する動きが広がるなか、ベルギーでは南部フランス語圏のワロン地域議会が投資家保護のための紛争解決手続きに関する条項を問題視。ベルギー政府は7つの地域議会から全会一致で協定に調印する権限を取り付けるための条件として、ICSとEU基本条約の整合性についてEU司法裁の判断を仰いでいた。

司法裁はカナダとの協定に基づいて設置される常設の投資裁判所について、「CETAの投資紛争処理制度がEUの法秩序に悪影響を及ぼす怖れはない」と指摘。ICSとEU法の整合性は取れており、労働者の権利、製品の安全性、消費者保護などの領域で「民主的選択」が損なわれることはないと結論づけた。

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