欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2019/5/27

EU情報

メイ英首相が辞任表明、EU離脱の混迷深まる

この記事の要約

英国のメイ首相は24日、与党・保守党の党首を6月7日に辞任すると発表した。新党首の選出を経て、首相の座から退く。EU離脱をめぐる混迷の責任を取って退陣を求める声が強まる中、2度目の国民投票の実施の是非を議会に問う方針を打 […]

英国のメイ首相は24日、与党・保守党の党首を6月7日に辞任すると発表した。新党首の選出を経て、首相の座から退く。EU離脱をめぐる混迷の責任を取って退陣を求める声が強まる中、2度目の国民投票の実施の是非を議会に問う方針を打ち出したことに党が猛反発し、辞任圧力が一段と増したため、ついに決断を迫られた。今後については離脱強硬派の新首相が就任するのが確実で、離脱の先行きがさらに混沌とするのは避けられない情勢。「合意なき離脱」の可能性も強まってきた。

メイ首相は首相官邸前で、「離脱協定案への支持を議会から取り付けるため、あらゆることを行ったが、残念ながらかなわなかった。新たな首相が(離脱)を主導するのが国家にとって最も有益なことが明確になった」と涙ながらに述べ、辞意を表明した。

メイ首相の党首辞任が6月7日となったのは、米国のトランプ大統領が同月3~5日に訪英することが関係しているもよう。保守党の党首選を経て、7月末までに首相も退任する見込みだ。

メイ首相は2016年7月、前月に実施されたEU加盟の是非を問う国民投票で、自らの思惑が外れて離脱が決まった責任をとって辞任したキャメロン首相(当時)の後任として就任。離脱に向けたEUとの交渉と、離脱方針をめぐる英議会のとりまとめを任された。

首相自身は国民投票の際に残留支持派だったが、国民の総意を尊重しなければならないとして、円滑な形での離脱を目指した。EUとの交渉はEU加盟国アイルランドと英国の北アイルランドとの国境問題を中心に難航したが、2018年11月に離脱協定案で合意。英国は議会の批准を経て、3月29日に離脱する予定だった。

しかし、離脱案は保守党と野党の反発を浴び、これまでに下院で実施された3回の採決で、いずれも大差で否決された。このため離脱期限が10月30日に延期された。

メイ首相は離脱案が3度目の採決で否決されてから、打開策として与野党の協議で妥協案を探る方針に転換した。しかし、関税同盟残留など今後もEUとの緊密な関係を維持することを求める最大野党・労働党と、強硬離脱派が多い保守党との溝が埋まらず、17日に協議が決裂。離脱関連法案が承認されるメドが立たない状況が続く中、4度目の採決を6月3日の週に行うことを5月14日に決定したほか、16日には離脱案の採決の結果に関わらず、6月に辞任時期を明確に示すと発表した。

それでも、こうした「捨て身」の戦術が奏功せず、情勢が好転しないことから、21日に最後の手段として、議会が離脱案を承認すれば、EU離脱に関する2度目の国民投票の実施の是非を議会に問う方針を打ち出した。労働党の支持を取り付けるのが狙いだ。このほか同法案には、離脱後もEU関税同盟に一時的に残留することの是非を議会に問うなど、労働党に配慮した措置が盛り込まれた。

ところが、同方針は与党の反発を招いただけでなく、恒久的な関税同盟残留を主張する労働党も従来案の「焼き直しだ」(コービン党首)と批判し、離脱関連法案の採決で反対に回る意向を表明した。これで万策尽きた首相は、22日に保守党のレッドソム下院院内総務が新方針に反発して辞任するなど、党内の退陣圧力がさらに強まった結果、前倒しで辞任を決めた。

次期首相、ジョンソン前外相が最有力

次期首相となる保守党の新党首は、約10万人の党員の投票で選ばれる。すでにジョンソン前外相、ハント元外相らが出馬を表明している。党員の大半はEU懐疑派で、離脱派の新首相が就任する可能性が濃厚だ。

その中でも最有力候補とされるのがジョンソン前外相。同氏は強硬離脱を支持してきた人物で、首相がEUとの協調を優先する「ソフト・ブレグジット(穏健離脱)」路線を打ち出したことに反発し、2018年7月に外相を辞任していた。

メイ首相の退陣で、英国のEU離脱のかじ取り役は代わるが、誰が新首相になるとしても混迷の状況は大きく変わらない。EUと合意した離脱案のままでは下院の承認を得るのが不可能なためだ。仮にジョンソン氏が就任すれば、党内の強硬離脱派をとりまとめることができるが、逆に穏健離脱派の離反を招き、党が分裂しかねない。そもそも、ジョンソン氏など強硬離脱派がEUと合意した離脱案の可決を目指すとは思われず、離脱案の見直しに向けた再交渉をEUに要求する公算が大きい。

ただ、EU側は再交渉に応じない構えを堅持しており、実現は難しい。その場合には、EUと合意しないまま10月末に離脱する可能性が出てくる。下院は合意なき離脱は避けるという動議を3月に可決したが、新首相が強行しようとすれば止められないとの見方がある。ジョンソン氏は16日、スイスで行った演説で、「合意があろうがなかろうが、我々は10月31日にEUを離脱する」と述べ、合意なき離脱も辞さない構えを改めて示した。

一方、EU側は離脱条件を定めた協定案をめぐる再交渉は拒否するものの、離脱後の英国とEUの関係の大枠を定める政治宣言の見直しには応じる姿勢を示している。メイ首相も政治宣言に妥協案を盛り込むことで、議会の承認を取り付けるという戦術を試みたことがある。これを新首相が選択した場合、新方針を打ち出し、離脱期限をさらに延長した上でEUと協議を進めることになる。

いずれにせよ、離脱期限の10月末までに問題を決着させるのは至難の業で、EUに離脱期限の再延長を要請するのが確実とみられる。また、事態が打開できない場合は政権運営に行き詰まり、解散総選挙に打って出る可能性もあるが、保守党は労働党とともに先の地方選で議席を大きく減らしたばかり。今回の欧州議会選でも5位に転落した。すでに少数与党となっており、北アイルランドの地域政党・民主統一党(DUP)の閣外協力でかろうじて政権を維持している保守党としては、避けたいところだ。

総選挙を実施しても早期のEU離脱を訴える新党「ブレグジット党」の躍進が予想され、2大政党のどちらも過半数を確保できず、不安定な連立政権が発足する事態が予想される。たとえば保守党とブレグジット党の連立政権が誕生と、合意なき離脱がますます現実味を帯びてくる。

一方、労働党内にはEU離脱をめぐる国民投票の再実施を求める勢力があり、同方針を積極的に打ち出せば総選挙で勝ち目があるとの見方がある。英国は離脱を取り消す権利を有しており、国民投票の再実施による離脱撤回という可能性も残されている。