英首相が10月末のEU離脱を断念、12月の総選挙実施を提案

英下院は22日、政府とEUが合意した離脱協定案の関連法案を短期間で審議することを求める動議を反対多数で否決した。これを受けてジョンソン首相は24日、約束してきた10月末の離脱を断念。状況を打開するため、12月に前倒しで総選挙を実施することを最大野党・労働党に提案した。一方、EUは25日、英政府が申請していた離脱期限延期を認めることで合意したが、新たな期限の設定は英議会の総選挙への対応次第として見送った。

EUと英国は17日、英の離脱条件に関する新たな協定案で合意した。しかし、英議会は19日、必要な関連法が可決されるまで協定案の採決を先送りするという動議を可決。ジョンソン首相は先に下院が決めた法律に従い、EUに離脱期限の3カ月延長を要請する事態に追い込まれた。

何が何でも10月31日に離脱するという方針を掲げるジョンソン首相は21日、EUが離脱延期を認めるかどうかの手続きを進める間に離脱協定案を可決させ、予定通り離脱するため、関連法案の前に離脱協定案の採決を行うよう下院に求めた。しかし、バーコウ議長に却下されたため、首相は関連法案の審議を24日までに終わらせることを求める動議を22日に提出した。

これに対して野党側は、通常は数週間以上を要する重要法案の審議が3日間では短すぎるとして、議員の大半が反発。賛成308票、反対322で否決された。これを受けてジョンソン首相は同日、離脱延期に関するEUの対応が決まるまで、関連法案の審議を凍結する方針を打ち出した。

一方、これに先立って行われた関連法案の基本的な内容の賛否をめぐる採決では、賛成329票、反対299票で承認された。労働党の19人の離脱派や無所属議員の一部が賛成に回った。離脱協定案が大枠で支持された格好だ。ジョンソン首相が就任してから政府が提出したEU離脱に関する法案、動議が支持されたのは初めてで、風向きは首相に有利な方向に変わりつつある。

それでもジョンソン首相が総選挙に打って出ようとしているのは、下院で過半数を割り込む与党・保守党が、世論調査ではリードしていることが背景にある。劣勢となっている労働党に圧力をかけることで離脱協定案を早期に可決し、離脱延期を短期間にとどめることを目指す。離脱問題に決着をつけた上で総選挙に臨み、政権基盤を強化するという戦略だ。

首相は24日、労働党のコービン党首に宛てた書簡で、離脱が延期されても議会が現状のままでは混迷が続くとして、12月12日の総選挙実施を提案。これが承認されれば、関連法案の審議を再開し、11月6日までに成立させる方針を示した。

ジョンソン首相は28日に総選挙実施の動議を提出する予定。総選挙実施には下院の3分の2の賛成が必要となる。ジョンソン首相は9月に2度、総選挙を求めたが、拒否された経緯がある。保守党が過半数に達していないため、労働党の協力が不可欠だ。

労働党は合意なき離脱の回避が確定するまで総選挙に応じないという姿勢を堅持してきた。離脱期限が延期されることで、金科玉条としていた拒否の理由はなくなったが、支持率が低迷しているため、受け入れるかどうか不透明だ。他の野党は拒否で一致している。

コービン党首は25日、民放ITVとのインタビューで、今後の展開によって、合意なき離脱に至る可能性があるとして、ジョンソン首相が28日の総選挙をめぐる採決の前に、合意なき離脱を完全に否定する必要があると述べた。一方、労働党内では総選挙には応じるものの、タイミングが問題として、コービン党首が採決で党所属議員に棄権を求めるとの見方が出ている。

総選挙の動議が再び承認されない場合、ジョンソン首相は自ら内閣不信任案を提出し、解散総選挙を実現するという奇策を講じるとの見方が浮上している。不信任案は下院の過半数が賛成すれば可決するため、ハードルは総選挙実施の動議より低い。

一方、英国を除くEU27カ国は25日に開いた大使級会合で、10月末の離脱期限を延期することで合意した。ただ、どれだけ延期するかについては、英議会の28日の採決を見極めてから決めることになった。離脱期限の延期要請は3度目となる。

離脱期限の延期は、全加盟国の同意が必要。EUのトゥスク大統領(欧州理事会常任議長)は22日、同日の英議会の動きを受けて、ツイッターへの投稿で加盟国に延期を認めるよう働きかける意向を表明していた。

消息筋によると、大使級会合ではフランスを除く26カ国がトゥスク大統領に同調し、英政府の申請に沿って20年1月末まで延期することを支持した。しかし、英国が離脱協定案の批准に手間取り、延期が繰り返されていることにいらだちを募らせているフランスが、英議会に圧力をかけるため、短期の延期にとどめるよう主張し、11月15日または30日とするよう求めたという。

EUは28日または29日に再協議し、新たな離脱期限を決める見通しだ。

上部へスクロール