EUは8日開いた財務所理事会で、電子商取引に係る付加価値税(VAT)の不正防止を目的とする規制案の内容で合意した。クレジットカードなどの決済サービス提供者に対し、域内の国境を越えた取引に関するデータの提出を義務付けるという内容。税務当局はインターネットを介した物品やサービスの販売に係るVATの徴収状況を監視しやすくなり、欧州委員会はEU全体で年間50億ユーロ規模のVAT不正を防止できると説明している。
欧州委によると、EU市場ではオンライン取引の90%以上でクレジットカードやデビットカードなどの決済サービスが利用されている。このためカード会社などが保有する決済データは、税務当局が国境を越えたオンライン取引に係るVAT徴収を管理する際の有用なツールになる。新ルールの導入により、「ユーロフィクス」と呼ばれる加盟国の不正防止専門家ネットワークは決済サービス提供者から提供されるデータを共有・分析し、VATの支払い義務を果たしていない内外のオンライン事業者を特定することが可能になる。
欧州議会の承認を経て、2024年1月に新ルールが導入される。EU議長国フィンランドのリンティラ財務相は「決済データにアクセスする方法を調和させることで、加盟国はとりわけ国境を越えたオンライン取引におけるVATルールの順守状況を監視するための強力なツールを手に入れることになる」と強調した。
一方、財務所理は、中小企業を対象とするVATの課税免除や納税手続きの簡素化に関するルールでも基本合意した。小規模経営の企業がVAT関連の煩雑な手続きや過度の順守コストに苦しめられることがないよう、加盟国は中小企業向けの優遇措置を導入しているが、国によって内容や適用対象にばらつきがある。このためEU全体で適用基準を統一し、域内のどこに拠点があっても事業者が同じ恩恵を受けられるようにする。
具体的には国内事業のみの場合、年間売上高が8万5,000ユーロ以下の企業に対してVATの納税義務を免除する。国境を越えて事業展開している場合はEU内での年間売上高が10万ユーロ以下の企業を対象に、自国外での納税義務を免除する。25年1月に新ルールが導入される。