欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2020/2/24

EU情報

EU首脳会議、次期中期予算で合意できず

この記事の要約

加盟国は20、21日に開いた臨時首脳会議で同問題を協議したが、離脱した英国の拠出がなくなることで財源に穴が開くことから予算縮小を主張する一部の国と、補助金確保のため増額を求める国が対立し、合意に至らなかった。

ミシェルEU大統領(欧州理事会常任議長)は臨時首脳会議を前にした15日、妥協案として次期予算をGNI比1.074%の約1兆900億ユーロとする案を提示した。

これを受けてミシェルEU大統領は、21日に再開した会議で、純拠出国側に配慮してGNI比1.069%とする案を出したが、双方からまったく相手にされず、計30時間近くに及んだ協議は溝が埋まらないまま終了した。

EUの次期中期予算(対象期間2021~27年)策定をめぐる協議が難航している。加盟国は20、21日に開いた臨時首脳会議で同問題を協議したが、離脱した英国の拠出がなくなることで財源に穴が開くことから予算縮小を主張する一部の国と、補助金確保のため増額を求める国が対立し、合意に至らなかった。双方の溝は深く、協議は暗礁に乗り上げた状態で、次回の日程さえ決めることができなかった。

EU中期予算は全加盟国の全会一致での合意が必要。EU予算の拠出が補助金受給を上回る純拠出国と、受益国側が攻防を繰り広げるのが常で、この構図は今回も変わらない。しかし、次期予算では拠出額がドイツに次ぐ英国の離脱で、財源が7年間で約750億ユーロ減ることから、穴埋めのための拠出増を警戒する純拠出国と、地域振興・農業向け補助金の恩恵を受ける受益国側との対立が激化している。

欧州委員会は18年に発表した原案で、英国の拠出がなくなるものの、安全保障などEUが直面する課題に対応するため、予算(物価調整後ベース)を現行(対象期間14~20年)の1兆ユーロから1兆2,790億ユーロに増額する方針を打ち出した。予算が域内国民総所得(GNI)に占める割合は1%から1.1%に拡大する。

これに対して、「倹約4カ国」と称されるオーストリア、デンマーク、スウェーデン、オランダを中心とする純拠出国側はGNI比1%に抑えるよう要求。逆に欧州議会は、地球温暖化、難民対策や欧州のデジタル経済化などを進めるため、1.3%に引き上げるよう求めている。

ミシェルEU大統領(欧州理事会常任議長)は臨時首脳会議を前にした15日、妥協案として次期予算をGNI比1.074%の約1兆900億ユーロとする案を提示した。しかし、首脳会議では初日の20日、受益国側が増額を求めて抵抗。倹約4カ国もGNI比1%を上限とする立場を崩さなかった。4カ国寄りのドイツは、合意に向けて小幅の増額は受け入れる意向を表明したが、1.074%は行き過ぎとして反対に回った。

これを受けてミシェルEU大統領は、21日に再開した会議で、純拠出国側に配慮してGNI比1.069%とする案を出したが、双方からまったく相手にされず、計30時間近くに及んだ協議は溝が埋まらないまま終了した。

次期中期予算をめぐっては、倹約4カ国が予算の3分の2が地域振興、農業補助金に使われていることに反発し、国境管理や地球温暖化対策などに多くを回すべきと主張しており、予算規模だけでなく用途も争点となっている。これら4カ国とドイツに適用されているリベート制度(拠出額に対して補助金の受給額が少ない国に負担超過を是正するため、拠出の一部を払い戻す仕組み)の扱いも問題点だ。

EUは21年からの予算執行に向けて年内に合意する必要があるが、独メルケル首相は会議閉幕後に「(両派の)隔たりが大きすぎる」とコメント。次の首脳会議の日程さえ決まらないというのは危機的な状況で、EUが誓う英離脱後の結束強化とはほど遠い状態にある。