欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2020/3/2

EU情報

EU・英のFTA交渉など3月2日に開始、英は決裂も辞さず

この記事の要約

EU加盟国は2月25日に開いた閣僚理事会で、EUを離脱した英国との将来の関係の構築に向けた交渉の基本方針を承認した。

英政府も同交渉方針を27日に公表し、交渉が3月2日に開始されることになった。

さらに首相府は同日、ツイッターへの投稿で「EUがカナダ、日本など主要経済国と貿易協定に調印した際、これらの国の主権を尊重した」と述べ、EUが英国との交渉でも同様の姿勢を示すことを要求した。

EU加盟国は2月25日に開いた閣僚理事会で、EUを離脱した英国との将来の関係の構築に向けた交渉の基本方針を承認した。英政府も同交渉方針を27日に公表し、交渉が3月2日に開始されることになった。すでに双方の主張が大きく異なる中、英政府は決裂も辞さない姿勢で交渉に臨む。

英国は1月31日にEUを離脱したが、20年末までは移行期間となるため、貿易など基本的な関係は変わらない。同期間中に貿易や安全保障、外交、司法での協力など幅広い分野にまたがる将来の関係をめぐる交渉をまとめることになっている。最初の交渉は3月2~5日に開かれる。

最大の焦点となるのが自由貿易協定(FTA)締結に向けた交渉。双方とも関税ゼロの貿易を続けたいとする点では一致している。しかし、欧州委員会は2月3日に発表した交渉の基本方針案で、公平な競争環境を確保することを最優先し、関税ゼロの維持には英国がEUの競争法や公的補助、環境、労働者の権利などに関するルールに従うことを求める意向を表明した。

一方、英政府はEUとカナダが締結した協定と同様のFTAを目指す。「カナダ方式」では、同国はEUのルールに合わせなくても、ほとんどの関税が撤廃される。EUのルールに従わなくても、環境保護や食品衛生、労働者の権利保護などに関する規定が国内法にあるため、EUのルールに違反しないことを約束することで、EU側の懸念は解消されるとして、交渉に臨む構えだ。

英首相府のスラック報道官は25日、「英国はEUのルールに従わせようとする要求を受け入れるつもりはない。EUが英国の法律に従うはずがないのと同じことだ」とコメント。

さらに首相府は同日、ツイッターへの投稿で「EUがカナダ、日本など主要経済国と貿易協定に調印した際、これらの国の主権を尊重した」と述べ、EUが英国との交渉でも同様の姿勢を示すことを要求した。

これに対してEUのバルニエ首席交渉官は、EUの隣国である英国がEU単一市場に及ぼす影響はカナダなどと比べてはるかに大きく、受け入れられないと反論。26日に欧州議会で、「英国はカナダではない」としてカナダ方式のFTAを認めない方針を打ち出した。双方は早くも火花を散らしており、英国側の「約束」に、双方が同意できる何らかの法的拘束力をもたせることができるかどうかが焦点のひとつとなる可能性がある。

さらに、交渉には時間が制約されているという問題もある。残された期間は20年12月末までの9カ月で、このような短期間でEUが他国とFTA交渉で妥結した前例はない。しかも、今回は交渉分野が漁業権など多岐にわたる。移行期間は22年12月末まで延長することが可能となっているものの、英国は延長しない方針で、合意がないまま新たな関係に突入し、大きな混乱を招く懸念も浮上している。この場合、双方の貿易は世界貿易機関(WTO)のルールに沿ったものとなり、関税が復活することになる。

英政府は交渉方針に、6月までに交渉が進展しない場合は、決裂を前提に、FTAなしでの貿易開始に備えることに集中する方針を盛り込んだ。実質的な交渉期限を6月末とすることを宣言した格好だ。強硬姿勢を示すことでEU側に揺さぶりをかけ、譲歩を引き出す狙いがあると目される。