欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2020/5/18

EU情報

欧州委が域内の移動制限緩和を提案、観光業の再開に向け指針発表

この記事の要約

オーストリアも6月半ばにドイツとの国境を開放すると表明した。

オーストリアのクルツ首相も13日、6月15日付でドイツとの国境を開放すると表明した。

スロベニアも同日、3月から導入していた国境管理を緩和し、EU域内から加盟国の永住者や滞在許可証の所持者が入国する際、自主隔離をせずに入国することを認めた。

EU内で新型コロナウイルスの新規感染者が減少したことを受け、域内の移動制限を緩和する動きが出てきた。欧州委員会は13日、加盟国間の移動や旅行の再開に向けた指針を発表。国や地域ごとの感染状況や医療体制などの要件に応じ、段階的に規制を緩和するよう加盟国に提案した。夏の休暇シーズンを前に条件付きで観光業の再開を認め、経済への打撃を和らげる狙いだ。こうした中、ドイツ政府は同日、今月16日から国境封鎖を段階的に緩和し、6月半ばの完全解除を目指す方針を発表。オーストリアも6月半ばにドイツとの国境を開放すると表明した。

アイルランドを除くEU加盟国は域内の自由な移動を認めたシェンゲン協定に参加しているが、新型コロナの感染拡大に伴い各国は3月半ばから国境管理を厳格化。域内総生産(GDP)の1割を占める観光業は深刻な打撃を受けている。4月に入り感染者数の伸びが鈍化したことを受け、ギリシャやクロアチアなど観光業への依存度が高い加盟国が欧州委に再開を容認するよう迫っていた。

欧州委は移動制限の解除にあたり、国や地域ごとの感染状況に加え、移動先での医療体制や予防措置の実施状況、さらに経済とのバランスを考慮したうえで、段階的に国境を開放するよう呼びかけた。実際に制限を解除するかどうかの判断は加盟国に委ねられるが、欧州委は協調した対応を求めている。

欧州委の指針によると、感染リスクを抑えるため、旅行者は航空券などをオンラインで購入し、旅行中はマスクの着用が求められる。電車やバス、フェリーなどの交通機関に対して乗客数を制限したり、空港や駅に消毒液を設置するよう要請。乗客との接触を減らすため、機内や車内での食事や飲み物の提供も取りやめるよう促した。乗客に症状が出た場合の対応策を事前に策定することも求めている。

欧州委のブルトン委員(域内市場担当)は声明で「数百万社に上る中小企業が経営破綻の危機にあり、速やかに事業を再開する必要がある」と強調。バレアン委員(運輸担当)は「全ての交通機関で乗客と従業員の安全を確保するため、指針に沿った運営を強く奨励する」と述べた。なお、第三国からEU域内への渡航に関しては、欧州委は6月15日まで原則禁止する方針を打ち出している。

一方、ドイツのゼーホーファー内相は13日の記者会見で、近隣5カ国との間で3月から実施してきた厳格な国境管理を段階的に緩和すると発表した。第1段階として、16日からルクセンブルクとの国境を開放し、検問を全面的に撤廃。条件を整えばデンマークとの国境も早期に開放する。

フランス、スイス、オーストリアとの間では6月15日まで国境閉鎖を継続するが、どこからでも越境できるようにしたうえで、抜き打ち方式の検問に緩和する。ゼーホーファー氏はさらに、6月半ば以降は検問を撤廃し、域内の自由な往来を可能にしたいとの考えを示した。

オーストリアのクルツ首相も13日、6月15日付でドイツとの国境を開放すると表明した。クルツ氏は「正常化に向けて前進したい」と述べ、スイスや中東欧諸国との国境についても早期開放を目指す方針を示した。

このほかリトアニア、ラトビア、エストニアのバルト3国は15日、3国間の国境封鎖を解除。他のEU加盟国に先がけて国境を開放した。スロベニアも同日、3月から導入していた国境管理を緩和し、EU域内から加盟国の永住者や滞在許可証の所持者が入国する際、自主隔離をせずに入国することを認めた。