EU大統領が復興基金で妥協案、基本線は維持

EUのミシェル大統領(欧州理事会常任議長)は10日、新型コロナウイルスの感染拡大で大きな打撃を受けたEU経済の復興に向けた基金を創設する計画について、妥協案を公表した。基金の規模、3分の2を返済不要の補助金とする基本部分は維持しながらも、EUの次期中期予算(対象期間2021~27年)の総額を減らし、難色を示す4カ国の負担を軽減することで妥結を図る。

復興基金は欧州委がイタリアなど新型コロナによる経済の打撃が大きく、しかも財政悪化で国債発行での資金調達が難しい国に代わって債券を発行し、EUの高い信用力を生かして有利な条件で7,500億ユーロを市場で調達するというもの。EUの次期中期予算に組み込み、5,000億ユーロを補助金、残る2.500億ユーロを融資の形で、新型コロナの被害が大きい国を中心に配分することを欧州委は提案している。

しかし、「倹約4カ国」と称されるオランダ、オーストリア、デンマーク、スウェーデンは、事実上の共通債によって財政が厳しい南欧諸国などの債務を財政健全化に努めてきた国々が肩代わりすることになる点や、基金の規模、大半が補助金となることを問題視し、反対してきた。6月のEU首脳会議では、4カ国は共通債発行に関しては譲歩したが、基金の規模削減、全額を融資とすることを求めたため、合意に至らなかった。

ミシェル大統領の案では、復興基金の骨格は変えないものの、中期予算の総額を自身が2月に提示した妥協案の約1兆900億ユーロをわずかながら下回る1兆740億円に削減。また、EU予算の拠出が補助金受給を上回る純拠出国の倹約4カ国とドイツについて、拠出金の一部を払い戻す制度(リベート制)を維持することを提案した。

このほか、欧州委が復興基金のため市場で調達した資金の返済開始を2年前倒しの2026年とすることや、新財源として使い捨てプラスチック製品への課税、巨大IT企業を対象とするデジタル課税などの導入、中期予算の30%を地球温暖化防止関連のプロジェクトに投じることなどを盛り込んだ。

EUは17、18日に首脳会議を開き、復興基金と中期予算について再協議する。ミシェル大統領は、もたついている同問題を早期に決着させ、EUとして経済復興への強い決意を示すため、同首脳会議で合意に持ち込みたい考えだ。ただ、倹約4カ国側では新たな提案を評価する声が出ているものの、フィンランドのマリン首相は依然として復興基金の規模、大半が補助金となる点に難色を示しており、合意に至るかどうか不透明な情勢だ。

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