欧州委員会動向、EU域内産業・サービス・政策をウオッチ

2020/7/20

EU情報

復興基金めぐる調整難航、協議を20日も継続=EU首脳会議

この記事の要約

新型コロナウイルスの感染拡大で大きな打撃を受けたEU経済の復興に向けた基金を創設する計画をめぐる加盟国間の調整が難航している。17日に開幕した首脳会議で協議しているが、基金の規模や性格、支援条件をめぐり、「倹約4カ国」と […]

新型コロナウイルスの感染拡大で大きな打撃を受けたEU経済の復興に向けた基金を創設する計画をめぐる加盟国間の調整が難航している。17日に開幕した首脳会議で協議しているが、基金の規模や性格、支援条件をめぐり、「倹約4カ国」と称されるオランダなどが主張を曲げず、南欧を中心とする受益国側との対立が激化。2日間の日程を延長し、20日未明まで協議したが合意に至らなかった。首脳会議は20日午後に再開されるが、合意のメドは立っていない。

復興基金は欧州委がイタリアなど新型コロナによる経済の打撃が大きく、しかも財政悪化で国債発行での資金調達が難しい国に代わって債券を発行し、EUの高い信用力を生かして有利な条件で資金を市場で調達し、新型コロナの被害が大きい国を中心に配分するというもの。基金はEUの中期予算に組み込む。

欧州委員会が5月末に発表した案では、基金は7,500億ユーロ規模。5,000億ユーロを返済不要の補助金、残る2,500億ユーロを融資の形で配分するという内容だ。

同案はEUの2大国であるドイツ、フランスが支持しているが、財政健全化に努め、EU予算の純拠出国となっている倹約4カ国のオランダ、オーストリア、デンマーク、スウェーデンが難色を示し、6月の首脳会議で合意できなかった。

EUのミシェル大統領(欧州理事会常任議長)は、新型コロナで未曾有の危機に直面するEUの連帯を内外にアピールするため、早期の合意が必要として、調整に奔走してきた。5カ月ぶりに対面方式で開かれる今回の首脳会議での合意に向けて、2日目の18日に妥協案を提示。補助金を4,500億ユーロまで減らし、状況に応じて交付を差し止める仕組みを設けることを提案した。

しかし、4カ国側はさらなる補助金の削減や、受給する国に労働市場、年金など構造改革の実施を義務付け、これを怠った国への給付を1カ国でも拒否権を発動すれば中止する制度を設けることなどを要求。EU予算の拠出が補助金受給を上回る純拠出国の倹約4カ国などに拠出金の一部を払い戻す制度(リベート制)について、払い戻しを拡大することも求めた。これに南欧諸国などが反発し、話し合いが行き詰まったため、ミシェル大統領は日程を延長して19日に再協議することにした。

ミシェル大統領は同日の協議で、補助金を4,000億ユーロまで削減することを提案したが、4カ国側は3,500億ユーロまで減らし、融資も同額とすることを要求。拒否権についても譲らず、日付をまたいで20日未明まで協議したが溝は埋まらなかった。

4カ国でとくに強硬な姿勢を堅持しているのは、オランダのルッテ首相。財政健全化を軽視してきたイタリアなどのツケがEUに回されることに反発している。共通債券を欧州委が発行し、市場で資金を調達することには譲歩し、認める方針に転換したが、返済不要の補助金を軸とする支援は受け入れられないという線は譲らない。中途半端な妥協が次期総選挙でのEU懐疑派の台頭を招く懸念もあり、他の倹約国と協調して、さらなる譲歩を引き出したい考えだ。

首脳会議は20日午後に再開される。しかし、オランダは民主主義の土台となる法の支配が揺らいでいる国への補助金交付も禁止するべきと主張。標的とされたハンガリー、ポーランドが猛反発し、これが認められるなら復興基金計画そのものに拒否権を発動すると警告しているという問題もあり、同日中の合意は難しく、仕切り直して8月に再協議せざるを得ないとの見方も出ている。