欧州委員会は9日、英国に拠点を置く清算機関がEU離脱に伴う移行期間終了後の2021年1月以降も、EU域内の顧客向けにデリバティブ取引の決済業務を継続できるようにする方針を表明した。域内の金融機関などが英国の清算機関を利用できなくなり、デリバティブ取引が混乱に陥る事態を防ぐため、完全離脱後も一定期間、EU市場へのアクセスを認める。業務継続を容認する具体的な期間は示していない。
企業が相場変動のリスク回避などに利用しているデリバティブ取引では、欧州における中央清算機関としてロンドン証券取引所(LSE)グループのLCHクリアネットが圧倒的なシェアを握っている。EUは英国の清算機関について、完全離脱後も域内の顧客にサービスを提供するための条件を満たしているかどうかの「同等性評価」を6月末までに完了する予定だったが、手続きに遅れが生じていた。
欧州委のドムブロフスキス上級副委員長(経済総括、金融サービス政策担当)は今回の決定について、「デリバティブ取引の決済に関連した金融の安定性を脅かす可能性のあるリスクに対処するための一時的な措置」と説明。その上で、中央預託業務(デポジタリー)など他の金融サービス分野に関しては、同等性の評価が必ずしも市場アクセスを保証するものではないと指摘し、「EUの利益を含めた総合的な判断に基づいて決定される」と強調した。
LSEは金利スワップ取引の決済業務で最大のシェアを堅持している。EU当局者は英国の完全離脱に向け、域内の銀行に対して独フランクフルトのユーレックス・クリアリングなどに金利スワップのポジションを移行するよう促している。欧州中央銀行(ECB)のメルシュ専務理事はブログへの投稿で「一部の銀行はまだやるべき多くのことが残っている」と指摘。新型コロナウイルスの感染拡大を受けた移動制限などの措置を考慮しても、12月末までの移行期間が延長されることはないとして、完全離脱に向けた準備を進めるよう促した。